
心不全


心不全の患者さんって本当に多いよね。よくなってもまた入院になってしまう患者さんも多いし…。劇的に良くなる方法とかってないのかな??

臨床で心不全の患者さんを担当することはよくあるよね。心不全は日々の生活が大きく影響するんだ。心不全の病態や治療について解説していくね!
解説記事で学べること!
心不全の病態

心不全とは、心臓がうまく血液を全身に送れなくなった状態のこと。
心臓は全身に血液を送り出すポンプのような役割を果たしているよ。でも、このポンプ機能が弱くなると、血液がうまく回らなくなって、体のあちこちで不調が起こるんだ。これが「心不全」という状態だよ。
心不全では、肺に血液がうっ滞して呼吸困難になったり、下肢に水分がたまってむくみ(浮腫)が出たりする。また、血液が全身に十分に送られないことで、疲れやすくなったり(倦怠感)、運動耐容能が低下したりするんだ。
心不全は「病名」ではなく、心臓の機能が低下することで起こる「状態」や「症候群」と考えると理解しやすいよ。何らかの原因により、最終的に「心臓が血液を送れない」という状態に陥るのが特徴。日本では、心臓の病気はがんに次いで死亡原因の第2位…。その中でも、心不全が最も多くの割合を占める重要な疾患だよ。
ただ、心臓の機能が低下しても、体は血液循環を維持しようと必死に働くんだ。このときに働くのが代償機構というもの!
主な代償機構には以下のようなものがあるよ。
- 心拍数の増加:心拍を速くして、1分間あたりに送る血液量を増やそうとする
- 心筋の肥大:心臓の筋肉が厚くなり、より強く収縮しようとする(左室肥大など)。
- 血管の収縮:血圧を維持するために血管がキュッと収縮する
心不全では心臓の機能低下 → 代償機構の発動 → 心臓への負担増大 → 症状悪化という悪循環が起こる。この悪循環を早期に見つけ、適切な治療とケアを行うことが大切だよ。
さらに、心不全は、症状の現れ方や進行のスピードによって「急性心不全」と「慢性心不全」に分類されるよ。
急性心不全は、突然発症して短時間のうちに症状が急激に悪化するタイプ。たとえば、肺に水がたまる急性肺水腫を起こすこともあり、命に関わる重篤な状態に陥ることも…。早急な対応が必要なケースが多いのが特徴だよ。
一方の慢性心不全は、心臓の機能が少しずつ低下し、数ヶ月から数年かけて徐々に症状が進行していくタイプ。はじめは症状があまり目立たず、疲れやすさや軽い息切れなどの形で現れるけど、放置すると日常生活にじわじわと影響が出るようになるんだ。
心不全の分類
心不全は進行段階によって、ステージA〜Dの4段階に分類されるよ。進行度の分類(A〜D)は、初期のリスクがある段階から、進行した状態までをカバーする分類。症状が出ていない時期も含めて評価できるから、予防や生活指導にも役立つよ。

さらに、心不全の分類には「NYHA分類」(Ⅰ〜Ⅳ)や「フォレスター分類」という、よく耳にする別の分類方法もあるよ。これは、症状の重さや日常生活への影響の程度をもとに分類する方法で、すでに心不全の症状がある患者に使われるよ。
NYHA分類
慢性心不全の進行度の把握や治療方針の判断に用いられる。日常生活における心不全の症状を評価する指標だよ。

フォレスター分類
心不全患者の血行動態(循環の状態)を、心係数(CI)と肺動脈楔入圧(PCWP)という2つの指標から4つの型に分類する方法。主に急性心不全やショックの重症度評価に使われるんだ。

心不全のタイプ
心不全は、進行度だけでなく、「どのようなタイプの心不全か」を見分けることも大切。心臓が収縮して送り出す血液の割合(左室駆出率:LVEF)に注目した分類を紹介するね。

心不全の原因

心不全は、さまざまな病気や生活習慣がきっかけとなって起こるよ。
心不全を起こしやすくする病気や状態には以下のものがあるよ。
- 高血圧
- 糖尿病
- 慢性腎臓病(CKD)
- 動脈硬化の病気(脳梗塞や末梢動脈疾患など)
- 肥満・メタボリックシンドローム
- 家族に心臓の病気がある人
心不全のリスクファクターには、生活習慣病や遺伝・環境要因が大きく関わっているんだ。
心不全の直接的な原因となる病気には以下のようなものがあるよ。
- 心筋梗塞・狭心症
- 心筋症
- 弁膜症(心臓の弁の異常)
- 長年の高血圧(心臓の壁が厚くなり、動きが悪くなる)
- 不整脈(とくに心房細動など)
- がんの治療による心機能の低下(抗がん剤など)
慢性疾患である心不全は、一度発症すると、良くなったり悪くなったりをくり返す…。だから、食生活や喫煙など生活習慣の乱れが原因となりやすく、生活指導が大切だよ!
心不全の症状
心不全による症状は、どの心室に負担がかかっているかによって現れ方が違うんだ。
- 左心不全では、左心室から血液を送り出せないために肺に血液がうっ滞しやすく、息苦しさや咳など呼吸に関する症状が出やすくなる
- 右心不全では、右心室の働きが低下し、血液が全身(特に下半身)に滞るため、むくみや腹部の不快感などが現れる
左心不全が進行して右心不全へ移行することが多く、発覚時には左右の症状が同時に見られるケースもあるよ。
心不全の症状として以下のものがあるよ。

左心不全の症状(肺うっ血が中心)
- 息切れ・呼吸困難(労作時・夜間・横になると悪化)
- 咳・喘鳴
- 起座呼吸(仰向けで苦しく、座ると楽になる)
- 肺うっ血による肺水腫(重症時)
右心不全の症状(体のうっ血が中心)
- 下肢のむくみ(浮腫)
- 頸静脈の怒張
- 腹部膨満感・肝腫大
- 体重増加(体液貯留による)
共通する症状(心拍出量低下による)
- 倦怠感・疲れやすさ
- 運動耐容能の低下
- 食欲不振・消化不良
- 冷感(手足が冷たい)・チアノーゼ
左心不全の症状は、呼吸困難など「苦しい」症状が強く表れるため発見されやすい。しかし右心不全の症状はじわじわ進行するため気が付きにくく、発見が遅れてしまうことも少なくないんだ。
心不全の検査

心不全の診断には、画像検査・血液検査・心電図・カテーテル検査など複数の検査を組み合わせて行うよ。
血液検査
心不全が疑われたときに、最初に行われることが多いのが血液検査。中でもBNP(またはNT-proBNP)というホルモンは、心臓に負担がかかっているときに多く分泌されるから、心不全の有無や重症度の目安としてよく使われるよ。
また、心筋トロポニンは心筋の障害(心筋梗塞など)を示す指標で、心不全の背景にある病気を知るためにも重要。このほか、腎機能・肝機能・電解質バランスなどもあわせて評価されるよ。
また、血液ガスもとても重要。心拍出量低下によって全身へ十分な酸素を届けることが難しくなり、低酸素血症にも陥りやすい。全身の酸素と二酸化炭素のバランスや代償機能の状態を知るために必須の項目なんだ。
血液ガスの詳しい解説はこちら👈
心臓超音波検査
いわゆる「心エコー」は、心臓の動きや構造をリアルタイムで観察できる検査で、心不全の診断に重要な役割を果たすんだ。
- 左室駆出率(LVEF):心臓の収縮力を示す指標で、正常値は約60%以上
- 心室の拡大や肥大:心室の大きさや壁の厚さを評価し、心不全の進行度を判断する
- 弁膜症の評価:弁の開閉状態や逆流の有無を確認する
- 心内圧の推定:心室内の圧力を間接的に評価し、うっ血の程度を把握する
患者さんが仰臥位での検査が困難な場合は、側臥位やファーラー位など、安楽な体位で実施できるよう環境を整えよう。
心臓MRI(CMR)
心臓MRI(CMR)は、心臓の形や動き、筋肉の状態を詳しく調べられる検査。特に、心筋の傷や硬くなった部分(線維化)を調べるのに優れていて、心筋梗塞の跡か、心筋症など別の病気かを見分けることができるよ。
心臓MRIは心臓の動きを正確に評価できるから、心不全の重症度の鑑別にも有効。心エコーではうまく見えないときに、代わりとして使われることもあるよ。
心臓CT
心臓CTは、心臓の血管(冠動脈)や弁、心膜などの状態を詳しく見ることができる検査。動脈の狭窄や石灰化、弁の異常がないかを確認できるよ。
また、急性心不全のときには、肺塞栓や大動脈解離、肺炎などの鑑別にも使われることがある。心不全の場合、肺うっ血による「すりガラス影」や「胸水」などの所見が見られることもあるよ。
右心カテーテル検査
右心カテーテル検査は、カテーテル(スワンガンツカテーテル)を心臓内に挿入し、心臓内の圧力や血流量を直接測定する検査。心不全の重症度をより正確に評価し、治療方針の決定や薬剤の調整に役立つよ。
たとえば、右心房圧(RAP)、肺動脈楔入圧(PAWP)、心拍出量(CO)などの項目を測定することで、右心系・左心系それぞれのうっ血の程度やポンプ機能を客観的に把握することができるよ。
2025年の心不全ガイドラインでも、治療不応性の症例や、呼吸不全の原因が心原性であるか判断が困難な症例には、右心カテーテル検査の使用が有効と推奨されているんだ。
ただし、この検査は体への負担が大きい「侵襲的検査」のため、リスクと必要性を十分に検討したうえで実施されるよ。
心不全の治療

心不全の治療は、症状を和らげること(QOLの改善)と、病気の進行を防ぎ、命を守ること(予後の改善)が大きな目標。そのためには薬による治療だけでなく、生活習慣の見直しや指導といった、生活へのアプローチも大切なんだ。
初期治療
急性心不全では、クリニカルシナリオ分類を使用し、早期に治療を開始していく。クリニカルシナリオ分類とは、血圧や症状から病態をおおまかに分類し、初期対応をスムーズに開始するための分類だよ。

これらの分類によって治療方針が変わってくるんだ。たとえばCS1の心不全は高血圧性心不全とも言われ、血管抵抗が高い(後負荷)ことによって心拍出に負荷がかかり、結果的に肺うっ血を来す病態。この場合はまず血圧を下げること(後負荷を軽減させる)と、NPPVで肺に内側から圧をかけることによるうっ血の改善がメインの治療になるんだ。
もちろん、分類に当てはまらないことや複数の病態が複雑に合併していることもあるから、既往歴や病状経過によって治療を組み合わせていくよ。
NPPVの詳しい解説はこちら👈
薬物療法

心不全の治療において、使用される薬剤を解説していくよ!
利尿薬
利尿薬は、体内の余分な水分を排出することで、肺うっ血や下肢のむくみを改善する。主にループ利尿薬(フロセミドなど)が使われ、症状に応じてサイアザイド系やトルバプタン(バソプレシン拮抗薬)などが併用されることもあるよ。
急性心不全では静脈投与で早めの効果を狙い、尿量を見ながら調整していくんだ。
血管拡張薬(RAS阻害薬・ARNI)
血管を拡げ、心臓の負担を軽くする効果があるよ。
代表的なものは以下のとおり。
- ACE阻害薬・ARB:臨床で幅広く使われている基本薬。血管を広げ血圧を下げ、心臓を守る働きがある
- ARNI(サクビトリル・バルサルタン):ACE阻害薬やARBからの切り替えが推奨される新しい治療薬。心血管死や心不全による入院を減らす効果が期待されている
強心薬(β遮断薬)
β遮断薬は、交感神経の過剰な刺激を抑えることで、心拍数を低下させ、心筋の酸素消費を減らす薬剤。これにより、心臓の負担を軽くし、心臓の働きがこれ以上悪くならないように維持する効果があるよ。
心不全の急性増悪時でも、可能な限り中止せずに継続するよう推奨されていて、患者の状態を見ながら慎重に投与量の調整が行われるよ。
SGLT₂阻害薬
余分な糖と一緒にナトリウムや水分を尿に出すことで、心臓の負担を軽くし、入院や死亡のリスクを減らす効果が期待されているんだ。状態が安定していれば、入院中の早い段階から開始することも推奨されるよ。
もともと糖尿病の治療薬として開発された薬なんだけど、現在では糖尿病がなくても使える心不全の治療薬になっているよ。
非薬物療法

心不全は心機能や進行度に合わせて治療が変化するんだ。運動・デバイス・生活支援などを組み合わせながら、患者に合った対応が求められるよ。さらに、病状が進行し治療の効果が限られてくる段階では、穏やかな看取りも考えていく必要があるよね。
運動療法
心不全の患者さんは、少しの活動でも息切れしやすく、運動を避けがち…。しかし、運動は心機能を保つ効果があるから、適度に取り入れる必要があるよ。
心臓リハビリテーションでは、医師や理学療法士の管理のもとで、心拍数や呼吸状態をモニタリングしながら安全に運動を行うよ。これにより、運動耐容能の改善や再入院の予防、QOLの向上が期待されるんだ。
デバイス治療(ICD、CRT)
重症の心不全患者に対しては、心臓の機能を補助・調整する医療機器(デバイス)が使われることがあるよ。
- ICD(植え込み型除細動器)は、突然の心停止を防ぐために、致死性の不整脈を感知し、自動で電気ショックを与える装置
- CRT(心臓再同期療法)は、心臓の収縮のタイミングがずれている患者さんに対して、左右の心室が同時に効率よく動くように整える治療
これらは、左室駆出率(LVEF)が35%以下でNYHA分類Ⅱ~Ⅲ度の症状がある場合に、不整脈の有無や心電図の所見などをもとに検討されるよ。
生活指導
心不全の治療では、日々の生活習慣を整えることも治療の一環。例えば、食事の塩分制限や水分管理、体重の記録、服薬管理など、セルフケアの支援は再入院予防にも直結するんだ。
また、心不全は進行性の病気だから、治療が難しくなってきたときにどう過ごしたいかを、あらかじめ患者さんやご家族と話し合うことも大切。これは「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」と呼ばれ、看取りや緩和ケアの提供へ繋げるものなんだよ。
心不全診療ガイドラインでも、ステージCの早い段階からアドバンス・ケア・プランニングの導入が望ましいとされていて、本人の意思を尊重した治療方針の決定に役立つよ。
心不全の看護

心不全は治癒を目指すものではなく、再発しないよう日常生活を整えうまく付き合っていく必要がある。悪化の兆候を早期に見つけ、再発を防ぐ支援が重要だね!
バイタルサインと水分出納の観察
心不全の治療では、利尿薬の使用や補液制限がよく行われるから、インアウトバランスを正確に把握することが欠かせないんだ。必要に応じて、輸液ポンプなどを用いながら、過不足なく水分が管理されているかを意識しよう。
また、心不全患者では呼吸困難やSpO₂の低下、起座呼吸が見られることも多いため、呼吸状態の観察も重要だよ。
バイタルサインの変化にも敏感である必要があるよ。特に、血圧や脈拍、体温の変化は、内服薬(降圧薬や利尿薬など)の影響だけでなく、心不全の悪化を示すサインである場合もある。小さな変化も見逃さず、丁寧に観察を行おう!
苦痛症状の緩和
心不全患者にとって最もつらい症状のひとつが呼吸困難。呼吸の苦しさは、患者にとって死への不安を強く想起させる…。だから、安楽な体位の工夫や酸素投与などを行い、少しでも苦痛を軽減できるようサポートしていこう。
特に呼吸困難が強いときは、ファーラー位(上体挙上)で過ごしてもらうことで呼吸が楽になる。苦痛は身体だけでなく、精神面にも大きな影響を与えるから、声かけや不安への寄り添いも重要なケアのひとつだよ。
症状が落ち着いてきたら、活動と安静のバランスを意識して離床を進めるよ。心不全の患者さんは、少し動くだけでも息切れしやすいため「スモールステップ」で進めていこう。軽い運動や日中の離床を促し、体力の維持・回復を目指そう。
服薬管理
心不全の治療では、複数の薬剤を、一日1~4回内服するよう処方されるケースは少なくない…。だから、それぞれの薬剤の作用や副作用、注意点などについて本人や家族が理解できるようサポートする必要があるよ。
退院後は、内服管理は本人または家族が中心に行う。医師の指示通りの内服が基本だけど、体調不良や生活リズムの乱れによって、タイミングを逃してしまうことがあるかも…。でも、飲み忘れや自己判断による怠薬が続けば、再発リスクが高まるよね。
高齢者では、認知機能の低下による飲み忘れもあって、必要に応じて訪問看護の介入や福祉サービスの利用といった調整も看護師の役割の一つだよ。
本人・家族への生活指導
心不全の再発を防ぐには、本人と家族の理解と協力が不可欠!
特に以下のような生活管理を、継続できるよう支援しよう。
- 体重や血圧、脈拍の記録は、早期の異常発見につながる。スマートウォッチやアプリの活用も便利。
- 毎日の体重測定は、体液貯留のサインをいち早く見つけるために非常に重要。
- むくみや息切れ、急な体重増加などの症状に早めに気づけるよう、注意点を明確に伝える。
- 塩分は、1日6g未満を目安に疾患や嗜好に応じて個別調整したり、一日の水分量に気を配るよう指導する。
- フレイル(加齢による虚弱)を予防するためには、栄養と運動の両面からの働きかけが重要であることを伝える。
さらに、定期的な通院の継続と、自己管理の意識づけが、再発防止と長期的な生活の安定につながるよ。患者さんと家族に寄り添いながら、毎日無理なく続けられる管理方法を提案・指導していこう!

心不全を振り返ってみるよ!
「心筋梗塞」解説記事のまとめ
- 心不全とは、心臓が全身に血液をうまく送れなくなった「状態」のことで、病名ではない。
- 心臓のポンプ機能が弱まると、血液循環が悪くなり、肺に血液がうっ滞して呼吸困難になったり、下肢に浮腫が出たりする。
- 心不全では「心臓の機能低下 → 代償機構の発動 → 心臓への負担増大 → 症状悪化」という悪循環が起こるため、早期発見と適切な治療・ケアが重要。
- 心不全の治療は、薬物療法や生活指導を実施し、QOLと予後の改善を目指す。
- バイタルサインや水分出納の観察、苦痛の緩和も大切なケア。
- 再発を繰り返さないように生活指導をすることも看護師の役割のひとつ。

長年の生活を変えることって難しそう…。だけど、健康のためにも患者さんが納得して実施できるよう指導をしていこうね!


