
慢性閉塞性肺疾患(COPD)


慢性閉塞性肺疾患(COPD)の既往がある患者さんって、ものすごく多いよね…。今日受け持った、心不全のAさん、肺炎のBさん、どちらも既往にあったけど、メインの疾患ではなかったんだよね。COPDに対して何か注意することはあるの?

COPDが悪化した結果、心不全や肺炎といった疾患を起こして入院になる患者さんは多いよ。COPDがある患者さんは、肺の状態がもともと良くないということを踏まえてケアする必要があるんだ。COPDについて学んでいこう!
解説記事で学べること!
慢性閉塞性肺疾患の病態

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、主にタバコの煙などの有害物質を長期間吸い続けることで起こる、呼吸がしにくくなる慢性の肺の病気。日本では高齢者を中心に増えていて、予防と早期発見・治療がとても大切なんだ。
COPDは、空気の通り道(気道)が狭くなって、空気の出し入れがしにくくなる「気流閉塞」が特徴。これにより、呼吸がしづらくなり、息切れ(呼吸困難)を主な症状として訴える人が多い。
COPDは、病態の現れ方によって大きく2つのタイプに分けられるよ。
ひとつは「気腫型COPD」で、肺の弾力が失われて息を吐く力が弱くなり、息切れが主な症状となるタイプ。もうひとつは「非気腫型COPD(慢性気管支炎型)」で、咳や痰が多く、気道の炎症が主体のタイプだよ。
このような病型は、COPDの中でも現れ方の違いを示す臨床的な分類。一方、実際の肺の中では「気腫性病変」と「末梢気道病変」という2つの病変が、さまざまな割合で混ざり合って存在しているよ。
- 気腫性病変:肺の中の肺胞という組織が壊れて、弾力が失われてしまう病変。主に気腫型COPDで目立つ。
- 末梢気道病変:肺の奥にある細い気道が炎症や線維化で狭くなり、空気の通り道がふさがれてしまう病変。非気腫型COPDで主にみられる。
多くの患者さんは気腫性病変と末梢気道病変の両方の異常を併せ持ち、そのバランスによって症状の現れ方が異なるんだ。
肺の内部でこうした変化が起こると、息を吐く力が低下し、肺に空気が残りやすくなるんだ。その結果、空気がたまりパンパンにふくらんだ状態(肺の過膨張)や、息を吐き終わった後も肺に空気が残ってしまうよ(残気量の増加)。
その結果、吸うことよりも「吐くこと」が難しくなる「閉塞性換気障害」が進行し、患者さんは少しの動作でも息苦しさ(労作時呼吸困難)を感じやすくなる。
さらに、COPDが進行すると、肺だけでなく全身にも影響が表れるんだ。代表的なものは以下の通り。
- 換気血流不均等:肺の空気と血流のバランスが悪くなり、酸素がうまく取り込めなくなる(低酸素血症)
- 高二酸化炭素血症:息をうまく吐けないことで、体に二酸化炭素がたまりやすくなる
- 呼吸不全:安静時でも息苦しくなり、日常生活が制限されるようになる
このように、症状や肺の変化は人によって違うから、どのくらい進行しているのかを判断するために「重症度分類」が使われているよ。
GOLD分類
国際的に広く用いられている重症度を把握するための分類。COPDの重症度分類とリスクABC分類の2軸で構成されているよ。(※2022年よりA/B/E分類に再編)
| GOLDステージ | FEV₁ (%予測値) | 説明 |
| GOLD 1 | ≧80% | 軽度 |
| GOLD 2 | 50~79% | 中等度 |
| GOLD 3 | 30~49% | 高度 |
| GOLD 4 | <30% | 極めて高度 |
| 分類 | 呼吸困難や増悪歴の有無に基づく分類 |
| A | 症状軽度・増悪歴なし |
| B | 症状あり・増悪歴なし |
| E | 増悪歴あり (1回入院または2回以上の増悪) |
慢性閉塞性肺疾患の症状

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、初期には目立った症状がないことも多く、「風邪が長引いている」と見過ごされやすい病気。代表的な初期症状は、咳、痰、労作時の息切れ。とくに、階段の上り下りや坂道での息苦しさは、見逃してはいけないサインなんだ。
COPDの患者さんによくみられる症状は以下のとおり。
- 慢性的な湿った咳(湿性咳嗽)
- 粘り気のある痰
- 労作時の呼吸困難(息切れ)
- 喘鳴(ぜいぜい、ヒューヒューという音)
喘鳴は日によって変動しやすく、感染や増悪時に強く出る傾向があるよ。ひどい咳が続くことで、咳嗽失神(咳で気を失う)や肋骨骨折を起こすこともあるから、注意が必要。
病状が進むと、軽い動作や安静時でも息苦しさを感じるようになり、呼吸不全へと移行していく…。下肢の浮腫が見られる場合は、肺性心(右心不全)の状態になっている可能性もあるから、心不全症状の観察もしよう。
増悪時の症状

「増悪」とは、COPDの症状が急激に悪化した状態。以下のような変化がみられた場合は、治療内容の見直しや入院が必要になることもあるよ。
呼吸の変化
- 息切れや咳・痰の増加
- 胸部の不快感や違和感の出現
- 補助筋使用や口すぼめ呼吸など、努力性呼吸の出現
- 呼吸音の減弱や呼気の延長、奇異性呼吸などの異常な呼吸パターン
慢性低酸素による変化
- チアノーゼ(唇や指先が青紫に変色)
- ばち指(指先が丸く太くなる)
身体面の変化
- 胸鎖乳突筋の肥大(呼吸のために首の筋肉を過剰に使っている)
- 右心不全の兆候(下肢のむくみ、頸静脈の怒張、肝腫大など)
意識・精神面の変化
- 傾眠、錯乱などの意識変容
これらの症状が出現した場合、速やかな治療が必要なので、アセスメントと医師への報告が重要!
慢性閉塞性肺疾患の検査

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、咳や痰、息切れなどの症状だけでは診断がつかず、呼吸機能検査などの医学的な評価が不可欠。とくに40代以降で喫煙歴がある人では、早期に検査を行うことが重要だよ。
呼吸機能検査(スパイロメトリー)
COPDの診断にもっとも重要な検査が、呼吸機能検査。中でも重要な指標が「FEV₁/FVC」という値だよ。
- FEV₁(1秒量):息を思いきり吸ったあと、最初の1秒間にどれだけ吐けたかを示す量
- FVC(努力性肺活量):思いきり吸った空気を、限界まで吐き出したときの合計の量
- FEV₁/FVC(%):全体(FVC)のうち、最初の1秒で何%吐き出せたかを割合で示したもの
健康な人では、FEV₁/FVCが70%以上あるのが一般的。しかしCOPDでは、気道が狭くなって空気がうまく吐けなくなるから、この値が70%未満になるよ。
このため、FEV₁/FVCが70%未満という結果は、COPDを疑う重要なサインとされているんだ。
胸部レントゲン
胸部X線写真では、以下のようなCOPDに特徴的な変化が見られることがある。
- 肺野の透過性亢進(残気量が多く、肺野が真っ黒に見える)
- 横隔膜の平低化(肺の過膨張により、横隔膜が平たく見える)
- 肺野末梢の血管陰影が少なくなる
- 滴状心(肺の過膨張で心臓が圧迫され、心臓が細長く見える)
- 肋間腔の拡大(肋骨の隙間が広く見える)
ただし、初期のCOPDでは明らかな異常が出にくいから、定期的な検査が必要だよ。
胸部CT
高分解能CT(HRCT)では、気腫性変化(肺の破壊)や気道壁の肥厚などを詳しく見ることができ、病態の評価や他の病気との鑑別に役立つよ。定量的に評価することで、治療の効果や経過を観察できるんだ。
その他
- 動脈血ガス分析・パルスオキシメータ:酸素や二酸化炭素の状態、酸塩基平衡の評価
- 運動負荷試験(6分間歩行など):運動耐容能や予後の評価に有用
- 呼吸筋力測定:呼吸リハビリテーション前後の比較に用いられる
- 喀痰検査や呼気ガス分析、血液検査:炎症の程度や喘息の合併(ACO)の指標を評価(例:末梢血好酸球数、FeNO、IgEなど)
- 身体活動性の評価:歩数計などで日常活動レベルを客観的に把握
COPDは進行性で全身に影響する疾患だから、多面的な検査が行われる。呼吸機能だけでなく、全身の状態を見ながら支える視点を持つことが大切だよ。
血液ガス分析の詳しい解説はこちら👈
慢性閉塞性肺疾患の治療

COPDの治療は、「今の症状をやわらげること」と「将来の悪化を防ぐこと」の両方が目的。主に、薬物療法と非薬物療法を組み合わせて行うよ。
薬物療法
安定期の治療
COPDの基本的な薬物療法は、気管支を広げて呼吸を楽にする「気管支拡張薬」。中でも長時間作用型の吸入薬(LAMA=抗コリン薬、LABA=β2刺激薬)が中心で、患者の症状や重症度に応じて単剤または併用で用いられるよ。
- 軽度:必要時に短時間作用型のSABAやSAMAを使用
- 中等度:LAMAまたはLABAの単剤使用
- 高度:LAMA+LABAの併用、さらに必要に応じてICS(吸入ステロイド)を追加
ICSは喘息の合併がある場合や、好酸球が高値で増悪を繰り返す患者に推奨される。治療反応や副作用を確認しながら、個別に調整していくことが重要なんだ。
増悪期の治療
増悪時には、まず短時間作用型の気管支拡張薬で気道狭窄の改善を図る。呼吸機能が著しく低下している場合は、短期間の全身性ステロイドが用いられることもあるよ。また、膿性痰がみられるときは細菌感染が疑われ、抗菌薬の使用が検討されるよ。
そのほか、テオフィリンや喀痰調整薬、マクロライド系抗菌薬(例:クラリスロマイシン)なども、補助的に使われることがある。
非薬物療法
禁煙指導
喫煙はCOPDの最大のリスク要因。禁煙することで、肺機能の低下を抑え、増悪や死亡リスクを大きく減らすことができるんだ。
COPDの治療の中では、禁煙が最も効果的な介入といえる。でも、患者だけで完全な禁煙をすることは難しいから、家族や周囲の方の協力を得ながら、長期的に禁煙を支えていく必要があるよ。
ワクチン接種
感染によるCOPD増悪を防ぐため、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されているよね。COPDの患者は、気道の防御機能が弱くなっているため、感染症にかかりやすい状態。また、一度の感染によりCOPDが急速に悪化しやすく、肺の機能低下の可能性が高まるよ。
そのため、ワクチン接種により、市中肺炎や感染性増悪のリスクを大きく下げることが大切だよ。
呼吸リハビリテーション
呼吸リハは、COPD患者の運動能力の維持・向上や呼吸困難の軽減に有効。主な構成は以下の通り。
- 運動療法(歩行や筋トレなど)
- セルフマネジメント教育(症状管理や吸入指導)
- 栄養療法(特にサルコペニア対策)
- 心理社会的サポート
患者自身が病気を理解し、自立して管理できるよう支援することが、大きな目的なんだ。
その他の治療
- 酸素療法(HOT):PaO₂≦55Torr、SpO₂≦88%の重度低酸素血症がある場合に、1日15時間以上の長期酸素療法が推奨される。生命予後の改善効果が証明されている。
- 換気補助療法(NPPV):Ⅱ型呼吸不全に対し、非侵襲的陽圧換気を使用することで、二酸化炭素の排出を補助する。
- 栄養療法:低栄養や筋力低下がある場合に実施し、運動療法との併用が有効。
- 外科療法(肺容量減量術):重症例や肺がん合併例で検討される。
NPPVの詳しい解説はこちら👈
慢性閉塞性肺疾患の合併症

COPDは肺の炎症だけでなく、体全体に及ぶ慢性炎症を引き起こすと考えられているよ。この慢性炎症が、さまざまな合併症や併存症の引き金になるんだ。
- 心血管疾患:慢性心不全、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞など)、不整脈、高血圧症
- 骨粗しょう症
- 骨格筋機能障害・サルコペニア・フレイル:COPDの進行により、筋力の低下がみられ、全身の筋肉量が減っていき(サルコペニア)、虚弱状態(フレイル)となっていく
- 精神症状:うつ状態、不安障害、認知機能の低下
- 糖尿病・メタボリックシンドローム:インスリンの効きが悪くなったり、代謝異常を引き起こす
さらに、次のような疾患があると、COPDの「増悪」や入院のリスクが高まるよ。
- 左心不全・右心不全
- 肺塞栓症(血の塊が肺の血管に詰まる)
- 肺炎
- 気胸
- 胸水
- 治療が必要な不整脈
これらは早期の観察と対応が必要な状態。日々のアセスメントで見逃さないよう注意しよう。
慢性閉塞性肺疾患患者の看護

COPDは一度進行すると元に戻ることが難しい不可逆的な病気。そのため、悪化を防ぎながら、今ある呼吸状態を最大限維持することが大切。看護師には、日々のつらさに寄り添いながら、患者さんが自分らしく生活するためのサポートが求められるよ。
禁煙サポート
喫煙は発症と進行に大きな影響を与える要因。そのため、禁煙は病状の悪化を食い止める最大の介入と言えるね。
でも、ただ「やめましょう」と言うだけでは長年の喫煙習慣をやめることは難しいよね。患者さんの生活背景や心理的な要因にも配慮しながら、喫煙のリスク、病気への理解、予後への影響を根気強く伝えていく必要があるよ。
禁煙外来の受診を勧めるほか、家庭や職場でも禁煙を続けられるような環境に整えるよう支援することも大切。患者さんだけでなく、家族や周囲の方の理解・協力も禁煙には欠かせないよ。
また、家族が喫煙している場合には、一緒に取り組んでもらえるよう働きかけることが、継続的な禁煙の成功につながるんだ。
痰の排出支援と感染予防
COPDの患者さんは、気道に痰がたまりやすく、排痰がうまくいかないことで呼吸がさらに苦しくなることがある…。そのため、体位を工夫して痰を移動させる体位ドレナージや、必要に応じた排痰の介助などが有効だよ。
自分でできない患者さんに対しては、ご家族へ指導を行おう。また、加湿や水分補給を意識することで、痰を柔らかくし、排出しやすくするといった生活の中で取り入れやすいポイントも伝えるようにしよう。
さらに、感染症による増悪を防ぐため、日頃からの感染への意識を高めてもらおう。手洗いやマスクの着用、ワクチンの接種など感染対策に有効な手段を勧めることも、看護師の役割のひとつだね。
ADLとセルフケア支援
COPDの患者さんは、洗面や着替え、階段昇降などの動作でも呼吸の苦しさを感じやすい…。そのため、無理のない動作の工夫や、こまめに休憩を取りながら活動する方法を一緒に考えていく必要があるよ。
どんな動作や時間で呼吸苦が生じやすいかは人により異なる。患者さん一人ひとりに合った生活の支援を考えていこう。
また、呼吸を楽にするために、腹式呼吸や口すぼめ呼吸の方法を指導することも効果的。ゆっくり息を吐くことで呼吸が安定し、息切れが軽減することがあるよ。
在宅酸素療法(HOT)を行っている患者さんには、酸素機器の取り扱い方法や使用上の注意点についてしっかりと説明し、安全に使用できるように支援することが大切。日々の生活の中で困っていることを具体的に聞き取り、必要な指導や援助を行おう。
心理的支援と社会資源の活用
呼吸がつらい状態が続くと、患者さんは次第に不安や落ち込みを感じやすくなるんだ。そうした心理面への配慮も、看護の大切な役割。話を聞いて共感すること、孤立感を軽減する関わりを持つことが、患者さんにとって心の支えになるよ。
同じ病気の患者さん同士で交流ができる患者会や、呼吸リハビリテーションに参加することで、前向きな気持ちを持つきっかけになる場合もあるんだ。
また、身体障害者手帳の取得や酸素療法に対する助成制度など、医療・福祉制度の情報提供や手続き支援も看護師の重要な役割。こういった制度は、生活への不安を軽減させ、安定した生活の助けになるよ。

慢性閉塞性肺疾患を振り返ってみるよ!
「慢性閉塞性肺疾患」解説記事のまとめ
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは、喫煙などの影響で肺が痛み、息を吐きにくくなる病気。慢性疾患だから、呼吸機能の維持と増悪予防が大切!
- 咳・痰・息切れが主な症状で、チアノーゼや意識低下などは増悪時に見られる重症化のサイン。
- 診断は呼吸機能検査(FEV₁/FVC:70%未満)で行い、治療は吸入薬や禁煙、ワクチン、リハビリを組み合わせる。
- COPDの増悪は心不全・骨粗しょう症・うつなど多くの合併症を引き起こしやすい
- 看護師に求められるのは、増悪を防ぐよう指導すること。COPDは不可逆的な病気だからこそ、現在の呼吸機能を守れるよう支援していこう。

入院の目的が心不全や肺炎であっても、COPDを無視してはいけないんだね…。退院後に増悪を繰り返さないように、生活への意識を変えてもらえるよう関わっていきます!!


