
脳出血


脳出血の患者さんって、保存療法だとあんまり看護師として関われることが無い気がするんだけど、何をしたらいいの?

脳出血は、看護師の観察やアセスメント力が活かされる疾患だよ。症状を最小限に抑えれば、今後の患者さんのQOLを大きく向上させられるんだ。脳出血とはどんなものか学習していこう!
解説記事で学べること!
脳出血の病態

脳出血は、「出血性脳卒中」のひとつで、脳の中の細い血管が破れて脳の実質内に血液が流れ出す病気!
高血圧による脳出血(高血圧性脳出血)がもっとも多いタイプだよ。
脳は頭蓋骨に守られていて、さらに、3層の膜(髄膜)と脳脊髄液(CSF)により保護されているんだ。
- 硬膜:もっとも外側にある強い膜で、頭蓋骨のすぐ内側にある
- くも膜:その内側にある、クモの巣のような薄い膜
- 軟膜:最も内側で、脳の表面にぴったり張りついている
くも膜と軟膜の間には「くも膜下腔」があり、ここには脳脊髄液が流れている。脳脊髄液は脳を浮かせるように守りながら、栄養を届けたり老廃物を排出したりする働きがあるんだ。

脳出血と同じ「出血性脳卒中」に分類されるものにくも膜下出血がある。脳出血が脳の実質内に出血するのに対し、くも膜下出血はくも膜と軟膜の間(くも膜下腔)に出血する疾患だよ。出血する場所や経過が異なるから、症状や重症度・予後にも違いがあるんだ。
脳出血の発症機序
脳出血の原因である高血圧の状態が続くと、脳の細い動脈は傷んで硬くなり、もろくなっていく。その結果、怒りや排便、飲酒、ストレスなどをきっかけに急激に血圧が上がり、傷んだ血管が破れ出血が起こるんだ。これが高血圧性脳出血の典型的なメカニズムだよ。
血管が破れると、脳の中に血液が流れ出て「血腫」が作られる。この血腫が、周囲の正常な脳を圧迫し、さまざまな神経症状を引き起こすんだ。圧迫される部位や出血の量により症状が変化するのも、脳血管疾患の特徴のひとつだよ。
さらに、血種は二次的障害を引き起こすんだ。血腫が大きくなると、周囲の脳がさらに腫れていき脳浮腫の状態となる。脳浮腫を起こすと、頭蓋骨の中の圧力(頭蓋内圧=ICP)が上がり、脳全体の血流が悪くなり、進行すれば脳の一部が押し出されて「脳ヘルニア」という危険な状態に陥る…。これは命に関わるため、早期の対応がとても重要だよ。
高血圧以外には、脳アミロイド血管症(CAA)、脳動静脈奇形(AVM)、脳動脈瘤破裂、もやもや病、脳腫瘍・外傷・抗凝固療法中の出血・血液疾患 などが脳出血の原因として考えられるよ。
NIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale)
脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)の重症度は「NIHSS」を使用するよ。意識レベル・麻痺・言語・視野など15項目を評価して、点数が高いほど重症!

脳出血の症状
脳出血は、突然の発症とともに、数時間以内に症状が完成するという特徴があるよ。代表的な症状には、意識障害・頭痛・片麻痺などがあり、出血の量が多いほど重症化しやすくなるんだ。
また、症状の現れ方は出血した部位によって異なるから、「どこに出血があるか」が診断や観察の重要なポイントだよ。
主な症状はこちら。
| 出血部位 | 主な症状 | 特徴・補足 |
| 被殻 | ・片麻痺(顔や手足の運動障害) ・感覚障害(しびれなど) ・構音障害(呂律困難) ・眼球の共同偏視(病側) | 最も頻度が高い部位。 出血量により予後不良となることも。 |
| 視床 | ・強い感覚障害 ・片麻痺 ・意識障害 ・瞳孔異常(縮瞳・散瞳) | 感覚障害が顕著。 脳室内出血や水頭症を合併しやすい。 |
| 小脳 | ・めまい ・ふらつき ・嘔吐 ・構音障害 ・嚥下障害 ・眼振 | 脳幹圧迫による意識障害に注意。 手術適応の場合も多い。 |
| 橋(脳幹) | ・急激な意識消失(昏睡) ・縮瞳(ピンホール) ・四肢麻痺 ・除脳硬直 ・呼吸停止 | 生命維持中枢の障害により重症化することが多い。 |
| 皮質下 | ・麻痺 ・感覚障害 ・失語(左半球) ・けいれん ・高次機能障害(記憶・注意など) | 多様な症状を示す。 比較的予後が良好なこともある。 |

脳出血の検査

脳出血の診断では、出血の有無を迅速に確認することが最優先。主に画像検査と血液検査が行われ、病状の把握だけでなく、治療方針の決定や合併症の予測にも役立つよ。
頭部CT検査
脳出血の診断で最も優先されるのが頭部CT検査だよ。撮影時間が短くすぐに結果が確認できるから、急性期の初期対応で第一に行われる検査なんだ。
頭部CTは、脳出血の有無や部位、大きさ、広がりを明確に捉えることができる。特に急性期には、出血した部分が境界のはっきりした白っぽい影(高吸収域)として写るのが特徴。時間の経過とともに血腫は徐々に吸収され、慢性期には黒っぽい影(低吸収域)へと変化していくよ。
また、以下のような所見も確認できるよ。
- 脳浮腫
- 脳室内出血(脳室への出血の広がり)
- 水頭症(脳室の拡大
- 脳ヘルニア
必要に応じて造影剤を使用し、出血以外の病変(腫瘍や感染)や、血腫周囲の変化を詳しく評価することも。特に亜急性期には、血腫の周囲がリング状に増強される所見がみられることがあるんだ。
MRI検査
MRI検査は、出血の詳細や原因の特定に役立つ検査。CTに比べて撮影時間はかかるけど、より繊細な画像が撮れ、微小出血や過去の出血跡なども見逃しにくいというメリットがあるよ。
脳出血そのものだけでなく、出血の原因となる病変(もやもや病や脳動静脈奇形など)の特定にも役立つんだ。
また、高齢者の皮質下出血でよくみられる「脳アミロイド血管症」の診断にもMRIは用いられる。脳アミロイド血管症は、脳の細い血管にアミロイドβというたんぱく質がたまって血管がもろくなり、出血しやすくなる疾患。MRIでは、脳の表面に鉄分が沈着した黒い影(ヘモジデリン沈着)や、血管のまわりが広がった所見などが見られ、再出血のリスクを評価する手がかりとなるよ
血液検査
血液検査は、出血の背景にある体の異常を確認したり、治療・手術に耐えられるかを判断するために実施されるよ。一般的な項目(血算・電解質・肝腎機能・血糖など)に加え、出血に関わる「凝固系検査」がとても重要なんだ。
特に、血栓溶解薬(t-PAなど)使用後の脳出血では、以下のような異常が見られることがある。
- PT(プロトロンビン時間)
- APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)
- フィブリノゲン濃度の低下
これらの数値に異常がある場合は、出血が悪化したり、治療選択に制限が生じる可能性があるんだ。
脳出血の治療

脳出血の治療は、出血の拡大を防ぎ、脳の損傷を最小限にとどめることが目的。
治療方針は出血量や部位、患者さんの全身状態によって異なるけど、急性期には特に「血圧管理」と「抗血栓薬の対応」が重要なポイントだよ。
血圧管理
急性期の脳出血では、高すぎる血圧が血腫の拡大を招くリスクがあるから、血圧管理が最も重要。目安として、できるだけ早期に収縮期血圧を140mmHg未満にコントロールすることが推奨されているよ。
ただし、下げすぎると脳の血流が不足するおそれもあるから、110mmHgを下回らないよう注意しながら調整されるよ。
降圧には、ニカルジピンなどのカルシウム拮抗薬や、硝酸薬が選ばれ、持続的な静脈注射で安定して血圧を下げていく。容態が安定すれば、経口の降圧薬に切り替えることも検討されるよ。
抗血栓薬のコントロール
抗血栓薬には、抗凝固薬(ワルファリン、DOACなど)と抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレルなど)があり、それぞれ対応が異なる。出血のリスクがある場合は、元々服用していた薬剤ごとに適切なコントロールを行うよ。
ワルファリン内服中で、血液が固まりにくくなっている場合(PT-INRが2.0以上)は、プロトロンビン複合体製剤(PCC)とビタミンKを使って早急に凝固能を回復させるんだ。
DOAC(直接作用型経口抗凝固薬)内服中の場合は以下の拮抗薬を使用するよ。
- ダビガトラン→イダルシズマブ
- 第Xa因子阻害薬→アンデキサネットアルファ
内服から時間が経っていない場合は、活性炭での吸着や輸液による排出促進が考慮されることも。
出血後の抗血栓薬の再開は、再出血のリスクと、脳梗塞など血栓のリスクのバランスを見ながら慎重に判断されるんだ。特に、心房細動や人工弁をもつ患者さんなどでは、慢性期からの抗凝固療法の再開が推奨されているよ。
痙攣への対応
脳出血では、出血部位や年齢によってけいれん発作を起こすことがあるんだ。
とくに高齢者の皮質下出血では、痙攣を起こすリスクが高いとされていて、必要に応じて抗てんかん薬による治療が検討される。また、実際に症候性のけいれんが見られた場合には、脳波検査や発作の経過を観察しながら、抗てんかん薬の投与量を調整したり、中止を検討したりする対応がとられるよ。
外科的治療
多くの脳出血は保存的治療が選択されるけど、以下のような場合は外科的治療(血腫吸引術や開頭手術)が検討されるよ。
- 出血量が多く、脳室や脳幹への圧迫で意識障害が強い場合
- 脳ヘルニアの兆候がある場合
また、脳アミロイド血管症に関連した出血に対しても、適応を見て手術が検討されることがあるんだ
そのため、しっかりと知識を身に付け、医師や臨床工学技士などを含めたチームで治療を進めていこう!
脳出血の合併症
脳出血の治療中や急性期には、以下のような合併症が起こることがある。再出血や血腫の拡大だけでなく、全身の状態にも注意が必要だよ。合併症とは別に、出血部位に応じた麻痺・感覚障害・高次脳機能障害などの後遺症が残ることも…。
出血・神経症状関連
- 再出血・血腫拡大:高血圧や血圧の急な変動により、再出血や血腫拡大が起こることがある。神経症状の悪化や意識障害の原因となるため、血圧管理と症状観察が重要。
- 頭蓋内圧亢進:血腫や脳浮腫によって頭の中の圧が上がり、脳ヘルニアを起こすリスクがある。意識レベルや瞳孔の変化などに注意が必要。
- けいれん(痙攣)発作:皮質下出血などで起こりやすく、発作の有無や脳波所見をふまえて抗てんかん薬を使用することがある。
血栓関連
- 深部静脈血栓症(DVT):脳出血後は出血リスクを避けるため抗凝固薬が一時中止されることが多く、さらに安静臥床も必要になるため、血栓ができやすい状態になる。特に心房細動(AF)などで本来抗凝固薬を服用していた患者は、血栓症のリスクが高まる。
- 肺塞栓症(PE):血栓が足の静脈にできるとふくらはぎの腫れ・熱感・圧痛が見られ、これが肺に流れると呼吸困難や胸痛などを伴う肺塞栓症となり、命に関わることがある。予防的なリハビリの介入や下肢の観察が重要。
感染症
嚥下機能の低下による誤嚥性肺炎や、バルンカテーテル留置による尿路感染を引き起こしやすくなるんだ。発熱・咳・尿混濁などの観察が大切だね。
廃用・栄養関連
廃用症候群・サルコペニア:合併症の出現や活動量の低下により、筋力や筋肉量が減少し、ADLの低下を招く。その結果、廃用症候群やサルコペニアの状態となる可能性が高まるんだ。
このような合併症に対しては、予防・観察・早期対応が看護師にとって重要な役割となるよ。
脳出血患者の看護

脳出血の治療は、安静や血圧コントロールなど看護師の介入が治療に影響を与える。身近な看護師だからこその「気づき」を大切にし、異常の早期発見や回復へのサポートを提供しよう!
血圧コントロール
脳出血は、高血圧が再出血や血腫拡大のリスク要因となるため、急性期の血圧管理がとても重要なんだ。治療では、収縮期血圧(SBP)を120〜140mmHgにコントロールすることが推奨されており、静注薬を用いた持続的な降圧が行われるよ。
適切に治療を進めるために、以下の点を意識しよう。
- 頻回の血圧測定・記録を行い、降圧薬の効果と副作用を継続的に観察する
- 急激な血圧低下が起きないよう、血圧の変動幅にも注意し、医師へ適切に報告する
- 脳圧管理の一環として、入院当日〜2日目を目安に、頭部を30度以上に挙上した安静体位を維持する(安静度の確認)
- 体位変換時や清拭・排泄介助時などは、処置による血圧変動を最小限にする
- 血圧が安定してきたら、早期離床を促し、誤嚥性肺炎やDVT(深部静脈血栓症)などの合併症予防に努める
また、患者や家族への説明・教育も大切。安静状態や頻回なバイタルサインの測定は患者さんや家族の不安をあおることがあるよ。「なぜ安静が必要か」「なぜ血圧をこまめに測るのか」など根拠も交えて説明することで、患者さんやご家族の安心感や治療への協力を引き出せるかもしれないね。
症状の観察・アセスメント
脳出血では、出血部位や量によって症状が大きく異なるから、症状の変化に素早く気づくことが重要。看護師は、JCSやGCSなどの意識レベルスケールや、NIHSSを用いて、患者さんの神経学的状態を客観的に評価していくよ。
特に、以下の項目に注意して観察を行おう。
- 片麻痺や感覚障害などの左右差
- 瞳孔の大きさや反応・眼球の位置
- 頭痛・嘔吐・痙攣・意識の低下などの兆候
- バイタルサインの変化(呼吸・脈拍・SpO₂など)
出血による脳圧の上昇や再出血の兆候は、時間との勝負になることも多い。「普段と違う」「変だな」と感じたらすぐに報告しよう。
早期からのリハビリ介入
早期からのリハビリテーションは、機能回復やADLの向上に効果的とされている。発症24〜48時間以内からの介入が推奨され、リハビリは理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などの多職種が関わって行われるよ。
患者の状態に応じて、座位保持・起立・移動訓練などの基本動作を段階的に実施していくんだ。リハビリの経過は、評価スケールを使って定期的に確認し、患者さんの状態に合っているかどうかの見直しも必要だね。
また、嚥下障害がある場合は誤嚥性肺炎のリスクが高くなる。
以下のようなケアが重要だよ。
- 早期からの口腔ケア・嚥下体操(間接訓練)
- 必要に応じた経管栄養の導入
- 嚥下機能評価に基づいた食形態や食事姿勢の調整
早期のリハビリ介入は、患者さんの身体機能を最大限に残し、QOLの向上につながるんだ。
ADL介助
脳出血後は、入浴・更衣・食事・排泄・移乗などの日常生活動作(ADL)に介助が必要となる場合が少なくない。患者さんごとに自立度を評価し、介助内容を調整しよう。
日常生活では以下のような点に注意しながらADLを支援しよう。
- 誤嚥予防のための食事介助(姿勢・食形態に配慮)
- 補助具(ボタンフック・リーチャー等)を活用した自立支援
- 2時間ごとの体位変換・移乗介助で褥瘡や拘縮、DVTを予防
- できることは自分でしてもらう姿勢で、自己効力感を大切に
- 排泄時の場所の工夫や、手すり・介助方法の指導
介助者のペースではなく、患者さんのペースに合わせて支援していこう。可能性を引き出すかかわりが、患者さんの今後の生活に大きな影響を与えるよ!

脳出血を振り返ってみるよ!
「脳出血」解説記事のまとめ
- 脳出血は、出血性脳卒中のひとつで、脳実質内に出血する疾患
- 最も多いのは高血圧性脳出血で、怒り・排便・飲酒などが誘因になる
- 出血により血腫ができ、圧迫された部位の神経症状が引き起こされる
- 血圧管理が重要で、140mmHg未満を目指しコントロールする
- 血圧管理や安静保持、日常生活援助など、ベッドサイドで関わる看護師の役割がとても重要

バイタル測定って、ルーティーン化していたけれど、値や症状を関連付けてアセスメントすることが大切なんだね…。
看護師のかかわりが大切って実感できたよ!


