
脳梗塞


受け持ちの患者さんが脳梗塞なんだけど、患者さんも家族もイマイチ退院後のイメージがピンときてないみたいで…。どうやって関わったらいいのか迷ってるんだ。

脳梗塞は、長期的な視点での関わりがとっても重要だよ。
今回は脳梗塞の急性期~回復期まで、看護師の役割についても学んでいこう!
解説記事で学べること!
脳梗塞の病態

脳梗塞は、脳の血管が詰まってしまうことで、脳に酸素や栄養が届かなくなる病気。
日本では「脳卒中」とまとめて呼ばれる病気のうち、約60%が脳梗塞であり、患者数も多く、重大な後遺症を残すことが少なくないよ。
脳に血流が届かなくなると、脳細胞はエネルギー不足となり、壊死してしまうんだ。一度壊死した脳細胞は元に戻らず回復は期待できない。早期発見・早期治療がとても重要な疾患なんだよ。
脳梗塞は原因によって大きく3つのタイプに分けられるよ。
ラクナ梗塞(穿通枝梗塞)
太い血管から枝分かれした細い血管(穿通枝)が詰まるタイプで、高血圧との関連が強い。比較的症状が軽いこともあるけど、脳の深部が障害されると注意が必要だよ。
アテローム血栓性脳梗塞
動脈硬化が進行して血管の内側にプラークがたまり、血管が狭くなった結果、血栓ができて詰まってしまう。頸動脈や脳内の太い動脈が関係することが多く、発症はゆるやかな場合もあるよ。
心原性脳塞栓症
心房細動などの不整脈が原因で心臓内にできた血栓が、血流に乗って脳の血管に飛んで詰まるタイプ。発症が突然で、重篤な症状を引き起こすことが多いのが特徴だよ。
脳梗塞のリスクファクター
脳梗塞は、さまざまな要因が重なって発症する病気。特に注意が必要なのは、生活習慣にまつわる疾患。高血圧、糖尿病、脂質異常症(高コレステロール)、そして肥満やメタボリックシンドロームなどは、いずれも動脈硬化を進行させ、脳の血管が詰まりやすくなる原因とされているんだ。
また、睡眠時無呼吸症候群や慢性腎臓病、末梢動脈疾患、さらには片頭痛など、他の疾患が脳梗塞のリスクを高めることも知られているよ。
喫煙は血管の内壁を傷つけて動脈硬化を悪化させる要因となる。また、過剰なアルコール摂取は血圧を上昇させたり、不整脈(特に心房細動)を誘発することで、心原性脳塞栓症のリスクを高めると言われているよ。
このように、脳梗塞のリスクファクターはいろいろあるから、問診の際は、生活習慣や嗜好品との付き合い方まで把握するようにしよう。
脳梗塞の症状

脳梗塞は、病変部位により症状が異なる。症状は、突然現れることが多く、以下のような症状が代表的だよ。
| 部位 | 症状 |
| 中大脳動脈(MCA) | ・反対側の手足の運動障害 ・反対側の感覚障害 ・失語 ・失読 ・失書 ・失認 ・失行 ・同名半盲 |
| 前大脳動脈(ACA) | ・片麻痺 ・意欲低下(無動・無関心)・失禁 ・パーソナリティの変化(感情が平坦になるなど) |
| 後大脳動脈(PCA) | ・視野障害(片方の視野が見えにくくなる=同名半盲) ・記憶障害(特に短期記憶) ・読み書きの障害(失読・失書) |
| 脳幹(橋・延髄など) | ・意識障害 ・嚥下障害 ・構音障害(呂律が回らない) ・複視(ものが二重に見える) ・眼球運動障害、顔面神経麻痺 ・四肢麻痺や左右非対称の麻痺 |
| 小脳 | ・ふらつき、めまい、平衡感覚の障害 ・嘔気・嘔吐 ・構音障害 ・協調運動障害(物をうまくつかめないなど) |
| 深部(ラクナ梗塞) | ・純粋運動麻痺(片側の手足の麻痺) ・純粋感覚障害(片側のしびれ) ・感覚・運動障害(麻痺としびれが両方) ・構音障害と手の不器用さ(dysarthria-clumsy hand症候群) |
| 内頚動脈 | ・反対側の手足の運動麻痺 ・反対側の顔や手足の感覚障害 ・言語障害 ・嚥下障害 ・失語 |
脳梗塞のサイン
脳梗塞は突然発症することが多い疾患だけど、なかにはその前ぶれとして「一過性脳虚血発作(TIA)」と呼ばれる軽い発作が見られることがある。
TIAは、脳の一部に一時的に血流が届きにくくなることで起こる症状。短時間(数分〜長くても1時間以内)で自然に回復するんだけど、これは本格的な脳梗塞の前兆として非常に重要なんだ。
- 急に手や足が動かしづらくなったが、すぐに元に戻った
- 急にろれつが回らなくなったが、しばらくしたら話せるようになった
- 片目の視野が一時的に見えにくくなり、その後回復した(※一過性黒内障)
このような一時的「いつもと違う」変化が、脳梗塞のサイン。TIA発症後、48時間以内に脳梗塞を発症する人が多いといわれていて、発見・対応のスピードが非常に大切だよ。
脳梗塞のサインは、「FAST」という語呂合わせで覚えられるよ!

該当した場合は、できるだけ横向きに寝かせ安静を守るようにし、受診を検討しよう。
また、TIAを起こした方の脳卒中リスクを評価する方法として、「ABCD²スコア」が用いられる。

脳梗塞の検査

どのようなタイプの脳梗塞か、発症時期・部位、障害を受けた状態などを確認するために、さまざまな検査が行われるよ。ここでは主な検査について紹介するね!
画像検査
画像検査では、主に脳の状態を調べるよ。
頭部CT
頭部CTは、脳出血との鑑別に非常に有効。脳梗塞と脳出血は、症状が似ていて、梗塞か出血のどちらが原因でその症状が起こっているかを判断する必要がある。救急外来などで、脳疾患を疑う場合は最初に行われることが多い検査だよ。
所見としては、脳出血は白く(高吸収)、脳梗塞は黒く(低吸収)見える。ただし、脳梗塞のごく初期はCTで変化が見えにくいから、MRI撮影を検討するよ。
頭部MRI
MRIは、脳の構造や血流の変化を詳しく調べる検査。
中でも「拡散強調画像(DWI)」は、脳梗塞の急性期の診断に非常に有効で、虚血性変化(血流が途絶えた範囲)を鮮明に描き出せるんだ。
また、DWIと液体抑制反転回復法(FLAIR:フレア)という別のMRI画像を組み合わせて見ることで、「DWI/FLAIRミスマッチ」という診断が可能。これは、脳梗塞の発症時間がはっきりしない場合に、画像の状態から、発症後4~5時間以内と推測ができる方法だよ。脳梗塞の治療は、発症時間が重要なため、治療方針を決める大きな判断材料となるんだ。
血管の評価
脳や頸部の血流を調べる目的で実施されるよ。
MRA(MR血管撮影)・CTA(CT血管撮影)
MRAやCTAは、脳の血管の形や状態を立体的に映し出す検査。血管の狭窄や閉塞している場所を確認できるよ。また、未破裂の脳動脈瘤や血管の異常も発見できるんだ。
DSA(デジタルサブトラクション血管造影)
造影剤を用いて脳の血管を詳細に調べる検査で、動脈瘤や血管の異常を高精度に評価できる方法。大腿などの太い動脈からカテーテルを挿入して検査するよ。やや侵襲的だけど、治療と同時に診断を行う「脳血管内治療」でもよく使われるんだ。
頚動脈エコー
頚動脈は、脳に血液を送る重要な血管。頚動脈エコーは、首の血管の動脈硬化の程度や、狭窄を調べるのに適した、身体への負担が少ない検査だよ。内膜中膜複合体(IMT)の厚さなどを計測することで、動脈硬化の進行度が評価できるんだ。
心臓の評価
閉塞性の脳梗塞が疑われる場合に、血栓の原因を調べる目的で実施するよ。
心電図(ECG)
脳梗塞の原因のひとつである心原性脳塞栓症では、心臓でできた血栓が脳に飛んで血管を詰まらせる。その原因である心房細動などの不整脈を確認するために、心電図検査が行われるよ。
血液検査
血液検査では、脳梗塞の危険因子の有無や、治療に必要な数値を確認するよ。
まず、血糖値やHbA1cを測定することで、糖尿病の有無や血糖コントロール状態を評価。次に、LDLコレステロールや中性脂肪、HDLコレステロールなどの脂質項目を調べて、脂質異常症や動脈硬化のリスクを確認するよ。
治療との関わりでは、ワルファリンを使用中の患者さんではPT-INRを確認し、抗凝固効果のモニタリングを行います。また、クレアチニンクリアランス(Ccr)は、心房細動のある患者さんに使われる抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)のひとつであるDOACの適切な用量を判断するために重要な項目なんだ。
脳梗塞の治療

脳梗塞の治療では、「詰まった血管をいかに早く再開通させられるか」が予後を大きく左右する。治療の流れを段階ごとにご紹介するね。
再灌流療法
血栓溶解療法(t-PA)
脳梗塞の発症から4.5時間以内の患者さんに対しては、「アルテプラーゼ(rt-PA)」という薬を点滴で投与することで、血栓を溶かす治療(血栓溶解療法)が行われるよ。
この治療は2005年から保険適用となり、発症直後の患者さんに有効な治療方法として広く実施されてるんだ。ただし、頭の出血歴がある人や大きな手術直後の人などには使えないこともあり、慎重な判断が必要。また、大きな血栓には効果が不十分なことも…。
MRI検査により発症時刻が予測できるため(DWI/FLAIRミスマッチ)、治療できれば予後を大きく左右するんだ。
血栓回収療法(カテーテル治療)
血栓が太い血管に詰まっている場合などには、足の付け根などからカテーテルを挿入し、血栓を直接取り除く「血栓回収療法」が行われる。
方法としては、以下の二つがあり、状況に応じて組み合わせて実施されるよ。
- 血栓を吸引する方法
- ステントのような器具で引っ掛けて回収する方法
この治療は発症から最大24時間以内であれば適応となる場合があり、t-PAが使えない場合の代替手段としても有効。回収成功率は80%ほどとされているよ。
急性期の薬物治療
抗血小板薬(非心原性)
血小板の働きを抑えることで血栓を作りにくくする薬。以下のような薬が使用されるよ。
- アスピリン:発症48時間以内に内服
- クロピドグレルとの併用:短期間のみ(1か月以内)が基本
- シロスタゾール:アスピリンと併用または単剤
- オザグレルナトリウム:急性期に点滴で使用されることもある
抗凝固薬(心原性)
心原性脳塞栓症の場合、抗凝固薬を使って血液が固まりすぎないようにするよ。
- アルガトロバン(点滴)
- DOACやワルファリンなど(慎重に時期を見て開始)
再発予防の治療と生活習慣の見直し
急性期を乗り越えたあとは、脳梗塞の再発を防ぐための治療が中心となる。脳梗塞の原因に応じて治療方法が選択されるよ。
非心原性脳梗塞では、アスピリンやクロピドグレル、シロスタゾールなどの抗血小板薬が選択されるんだ。複数の薬を併用する場合もあるけど、長期の2剤併用は出血リスクが高まるから、基本的には勧められていないんだ。
一方、心原性脳塞栓症では、DOAC(直接作用型経口抗凝固薬)やワルファリンなどの抗凝固薬を使用する。弁膜症や人工弁がある場合には、DOACではなくワルファリンが選ばれるよ。
また、再発予防のためには、血圧・血糖・脂質の管理や生活習慣の改善も重要。高血圧や糖尿病、脂質異常症の治療を行いながら、禁煙・減塩・適度な運動・節酒などの指導も行おう。
そのため、しっかりと知識を身に付け、医師や臨床工学技士などを含めたチームで治療を進めていこう!
脳梗塞の合併症

脳梗塞の治療中や急性期には、多くの合併症のリスクが…。
さらに、合併症とは別に、脳のダメージによって麻痺や構音障害などの後遺症が残るケースもあるんだ。
出血・血栓関連
- 出血性梗塞・脳出血:血栓溶解療法や抗凝固療法の副作用で、脳内出血が起こることがある
- 深部静脈血栓症(DVT)・肺塞栓症(PE):長期臥床により足に血栓が生じ、肺に流れると重篤な状態になる
循環・腎機能
- 低血圧:過度な降圧により全身の血流が不足し、生命予後に影響することがある
- 急性腎障害(AKI):血流低下により腎機能が悪化するリスクがある
神経・精神症状
- 脳卒中後うつ(PSD)・感情障害:気分の落ち込みや無気力、不安などが現れやすい
- 精神症状(せん妄・妄想など):急性期に混乱や幻覚などが見られることがある
- てんかん発作:脳損傷により発作が誘発されることがあり、再発のリスク管理が必要
薬剤の副作用
- 頭痛・頻脈(シロスタゾール):抗血小板薬の副作用としてみられることがある
- 出血性合併症(抗血小板薬・抗凝固薬):消化管出血や脳出血などのリスクがあり、モニタリングが重要
このような合併症に備えた観察・予防・早期対応が、看護師にとって大切な役割となるんだ。
脳梗塞患者の看護

脳梗塞の看護は、急性期には安静を保ちながら経過を慎重に観察し、回復期には退院後の生活に向けたサポートへとケアの軸を移していく。患者さんが、退院後に自分らしく過ごせるようサポートすることが看護師の大きな役割だよ。
神経所見やバイタルサインの観察
急性期に最も重要なのは、「小さな変化を見逃さない観察」。脳梗塞は一見落ち着いているように見えても、再梗塞や出血への進行、脳浮腫の悪化など、病状悪化のリスクがある疾患。「いつもと違う」と感じたら、すぐに報告し、医師やチームと連携して対応しよう。
- 血圧を指示範囲内に保つよう薬剤コントロールが必要。高すぎる血圧は脳浮腫や再出血、低すぎる血圧は、脳血流の低下に繋がり症状を悪化させる恐れがあるため、変動に注意する。
- t-PA治療は、治療後24時間は特に出血リスクが高く、血圧や意識障害など厳密な管理が必要な治療。
- t-PAは開始2時間までは15分ごと、次の6時間までは30分ごと、その後も1時間ごとの頻回な血圧測定を行う。
- 時間通りに測定できるよう、タイマーなどを使用し、チームで共有する。
- 神経所見の観察では、意識レベル(JCSやGCS)、重症度スケール(NIHSS)などを活用し、スタッフ全体が同じ尺度で状態を理解する。
- 瞳孔の左右差や対光反射、四肢の麻痺の有無・進行具合、言語や構音の状態などをこまめに確認する。
合併症の予防
急性期の脳梗塞患者は活動量が極端に低下するため、二次的な合併症が起こりやすくなるんだ。日々のケアの中で、予防的なアプローチを意識することが大切だね。
- 誤嚥性肺炎の予防には、食事時の体位(30~45度の頭部挙上)や誤嚥の有無の観察、必要時の嚥下評価の依頼、口腔ケアが重要。
- DVT(深部静脈血栓症)・PE(肺塞栓)の予防では、弾性ストッキングやフットポンプの使用、早期離床に向けた声かけやリハビリ介助も効果的。
- 褥瘡予防では、2時間毎を目安に体位変換、皮膚の観察、マットレスの選定などを行う。
- 意識障害や麻痺によって、排泄や栄養・水分管理の自立が難しい場合、緩下剤の使用を含めた排便コントロールや、脱水予防も必要。
- 嚥下機能が低下している状態では誤嚥性肺炎を引き起こしやすい。食事形態の工夫も必要。
リハビリ・ADL支援
回復期に入ると、患者さんの「できること」を一つずつ取り戻していくサポートが中心になるよ。理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)と連携し、患者さんの状態に合わせてリハビリを進めていこう。
- 早期リハビリは拘縮や廃用症候群の予防に有効。安静度が低くても、関節可動域訓練や座位保持の練習など、少しずつ介入する。
- ADL支援では、片麻痺や感覚障害による動作の困難さに応じて、適宜介助を行う。衣服の着脱、移乗、排泄、整容などの日常動作を、本人の力を活かす視点で支援する。
- 必要に応じて、福祉用具の導入も検討。スプーンや食器、移動補助具など、グッズを使うことで、ADL(日常生活動作)の自立を促す。ADLが確立すると、患者さんの自信につながり、前向きにリハビリに取り組めるようになる。
精神的ケアと家族支援
脳梗塞は、生活を一変させる疾患。麻痺や失語などの後遺症が残ると、本人も家族も大きな不安を抱えることになるんだ。
- 後遺症による「できないこと」より「今できること」に目を向けた声かけや、退院後を具体的にイメージできるような関わりが重要。
- うつや不安の兆候に早期に気づき、医師や精神科との連携も行う。
- 失語症や高次脳機能障害がある場合、コミュニケーションの方法を工夫する必要がある。ジェスチャー、絵カード、文字盤など本人が理解しやすい方法を提案する。
- 家族支援では、介護方法の指導や、制度利用に関する情報提供が必要。介護保険申請、住宅改修、福祉用具の貸与などは、退院前から準備が必要となるため、退院後の生活を早めにイメージしてもらい、本人と家族の希望に沿った退院支援を行う。

脳梗塞を振り返ってみるよ!
「脳梗塞」解説記事のまとめ
- 脳梗塞は、脳の血管が詰まることで酸素と栄養が届かなくなり、脳細胞が壊死する病気。発症後の適切な対応が予後を大きく左右する。
- 脳梗塞は原因によって、ラクナ梗塞・アテローム血栓性脳梗塞・心原性脳塞栓症の3つに分類される。
- 運動麻痺、感覚障害、言語障害、視野障害、意識障害などが主な症状で、病変部位によって症状の表れ方が異なる。
- 治療は発症早期に行う血栓溶解療法(t-PA)やカテーテルによる血栓回収療法が中行われ、再発予防として抗血小板薬や抗凝固薬が用いられる。
- 急性期から、退院後の生活を見据えたリハビリ介入が大切。患者さんが身体機能を最大限に活かし、前向きに生活できるようサポートしていこう。

患者さんに、急に退院後のことを話してもイメージは難しいよね…。今できていることに目を向けながら、時期に応じた具体的な支援方法を伝えようと思います!


