
血液ガス分析


血液ガス検査って、重症な患者さんだと毎日のようにやりませんか?

人工呼吸器で管理が必要な患者さんだと頻繁に検査をやるよね。

頻繁な検査は、患者さんにとって負担にならないのかな?

患者さんの苦痛に注目できたのはいい視点!
でも、患者さんの状態を把握するのに大切な検査なんだよ。
血液ガス分析について学んでいこう!
解説記事で学べること!
血液ガス分析とは

血液ガス分析は、動脈血を採取して血液中の酸素(PaO₂)、二酸化炭素(PaCO₂)、pH、重炭酸イオン(HCO₃⁻)などを測定する検査。
呼吸や循環、さらには代謝の状態まで総合的に評価することができるため、重症患者さんの管理や治療効果の判定に欠かせない検査なんだよ。
血液ガス分析の目的は、体内のガス交換機能(酸素と二酸化炭素のやりとり)や酸塩基平衡の状態を正しく把握すること。
血液ガス分析を行うことで、低酸素血症や二酸化炭素の異常を早期に発見でき、異常値の正確な判断につなげられるんだ。つまり、患者さんの「今の状態」を正確に見極めるための基本となる検査なんだよ。
血液ガス分析の基本知識
血液ガス分析は、主に手首の橈骨動脈や鼠径部の大腿動脈から採血して行うよ。ICUの重症患者さんは、モニタリングのために留置されている動脈ラインから、採血することもあるんだ。
動脈血は、肺での酸素と二酸化炭素のガス交換をそのまま反映しているから、呼吸や循環の状態を評価するのに最も適しているんだよ。
主な検査項目と正常値
| 項目 | 正常値 | ポイント |
| pH | 7.35〜7.45 | 血液の酸性・アルカリ性のバランス |
| PaO₂ (動脈血酸素分圧) | 80〜100 mmHg | 酸素の取り込み (低いと低酸素血症) |
| PaCO₂ (動脈血二酸化炭素分圧) | 35〜45 mmHg | 二酸化炭素の排出 (呼吸の評価に重要) |
| HCO₃⁻ (重炭酸イオン) | 22〜26 mEq/L | 腎臓による酸塩基バランスの調整 |
| SaO₂ (酸素飽和度) | 95〜100 % | 血液中のヘモグロビンが酸素と結合している割合 |
| Base Excess (BE) | –2〜+2 mmol/L | 酸塩基の代謝的な異常の有無 |
| ラクテート (乳酸) | 0.5〜1.6 mmol/L | 組織が酸素不足で無酸素代謝になると上昇。 ショックや敗血症の重症度評価に重要 |
血液ガス分析の読み方

項目は分かるけど、どうやって見たらいいのかがイマイチ分からないんだよね。

血液ガス分析は、3STEPでみていこう!
- 酸性かアルカリ性かを判断する
- 呼吸性か代謝性かを見極める
- 代償があるかどうかを確認する
1.酸性かアルカリ性か
pHの正常値は7.35~7.45。7.35より低い場合をアシデミア(酸性)7.45より高い場合をアルカレミア(アルカリ性)というよ。まずはpHを見て体が酸性かアルカリ性かを判断するんだ。

アシデミアとアルカレミア…
アシドーシスとアルカローシスじゃないの?

ここが混乱するポイントだよね。
アシデミアやアルカレミアは、状態のことを言うんだ。つまり、アシデミアはpHが7.35未満になった状態。一方で、アシドーシスは、酸性にしようとする病態のことだよ。細かいけどここが区別できると理解がぐっと進むよ!
2.呼吸性か代謝性か
次に、pHとPaCO₂・HCO₃⁻が、同じ向きなら代謝性、逆の向きなら呼吸性と覚えよう!

え…全然よく分からないよ。

そうだよね!ではこの図に当てはめて見てみよう。
| pH | HCO₃⁻ | PaCO₂ | |
| 呼吸性アシドーシス | ↓ | 正常 or ↑ | ↑ |
| 代謝性アシドーシス | ↓ | ↓ | 正常 or ↓ |
| 呼吸性アルカローシス | ↑ | 正常 or ↓ | ↓ |
| 代謝性アルカローシス | ↑ | ↑ | 正常 or ↑ |
ここで、覚えておいて欲しいのがこの正常値。
pH:7.35~7.45
PaCO₂:35~45
HCO₃⁻:22~26
まずはpHが正常値より上昇しているか、低下しているかを見る。その次に、HCO₃⁻とCO₂が上昇しているかどうかを当てはめるんだ。すると矢印の向きが同じか逆かで、代謝性か呼吸性かを判断できるんだよ。
3.代償の有無

代償とは、アシデミア・アルカレミアに傾いたpHを
正常に戻そうという反応のこと。
体には、呼吸と腎臓の2つの調整システムがあるんだ。
- 呼吸:二酸化炭素(PaCO₂)を増減させて、すぐにpHを整える(数分〜数時間)
- 腎臓:HCO₃⁻を調整して、ゆっくりpHを整える(数日かけて)
つまり、こういうことだよ!
- 呼吸性の異常では、腎臓がHCO₃⁻を変化させて補正する
- 代謝性の異常では、呼吸がPaCO₂を変化させて補正する

そもそも、代償しているかどうかで何が分かるの?

代償が弱いということは、補正がまだ間に合っていないということ。つまり急性の状態であると判断できるよ。反対に、代償が強いということは、すでに体が対応しているということだから、慢性であることが分かるんだ。

代償しているかどうかで、
時期や疾患の予測がしやすいということか。

そうそう!体のバランスは代償によって“完全に元に戻す”ことはできないんだ。だから、数値から『補正が働いているか』『急性か慢性か』を考えるのが大切なんだよ。
よくある異常パターン6つ

見方は分かったけど、実際にはどうやって使ったらいいの?

では、よくある異常パターンを例題で見ていこう!
ケース1:PaO₂の低下に注目
pH 7.40、PaCO₂ 40、HCO₃⁻ 24、PaO₂ 55
ここから予測される状態は何かな?
pHは7.40で正常範囲(7.35〜7.45)。酸性にもアルカリ性にも傾いていないね。PaCO₂は40 mmHg、HCO₃⁻は24 mEq/Lで、どちらも正常範囲。酸塩基バランスに異常は見られないよ。pHもPaCO₂もHCO₃⁻も正常だから、特別な代償は働いていないといえる。
ただ、PaO₂は55 mmHgで、正常値の80〜100 mmHgを大きく下回っている。PaO₂が70〜80 mmHg以下なら低酸素血症と判断できるんだ。つまり酸塩基は正常でも酸素化が低下している場合もあるんだ。
だから、血ガスを読むときは、必ずPaO₂もチェックしよう。重症患者ではPaO₂の低下が悪化のサインになることもあるよ。
ケース2:pHとHCO₃⁻の低下に注目
pH 7.25、PaCO₂ 25、HCO₃⁻ 14
ここから予測される状態は何かな?
pHは7.25で、正常範囲(7.35〜7.45)より低い。つまりアシデミアの状態だね。PaCO₂は25 mmHgで、正常値(35〜45 mmHg)より低下している。HCO₃⁻は14 mEq/Lで、正常値(22〜26 mEq/L)より明らかに低い。pHとHCO₃⁻が同じ方向に動いているから、これは代謝性アシドーシスといえるよ。
さらにPaCO₂も下がっているのは、呼吸で代償している証拠。体が酸性に傾いた分を、二酸化炭素を吐き出すことで補おうとしているんだ。
代謝性アシドーシスでは原因を探すことも重要。そのとき役立つのがアニオンギャップ(AG)。
- 高AG(乳酸アシドーシス、ケトアシドーシスなど)
- 正常AG(下痢、腎尿細管性アシドーシスなど)
つまりこの例題では、代謝性アシドーシス+呼吸性代償ありと考えられるね。
ケース3:PaCO₂上昇と代償の有無に注目
pH 7.30、PaCO₂ 60、HCO₃⁻ 25
ここから予測される状態は何かな?
pHは7.30で、正常範囲(7.35〜7.45)より低いから、アシデミア。PaCO₂は60 mmHgで、正常値(35〜45 mmHg)より高い。HCO₃⁻は25 mEq/Lで正常範囲。
pHとPaCO₂が逆方向に動いているから、これは呼吸性アシドーシスといえるよ。
ただ、HCO₃⁻がほぼ正常ということは、腎臓による補正(代償)がまだ十分に働いていない状態と言えるんだ。つまりこれは急性の呼吸性アシドーシスと考えられるよ。
もし、HCO₃⁻が30 mEq/Lくらいまで上がっていたら、腎臓が時間をかけて代償している「慢性呼吸性アシドーシス」が疑われるよ。これは、COPDなどの慢性呼吸不全の患者さんでよく見られるんだ。
ケース4:PaCO₂とHCO₃⁻の異常に注目
pH 7.10、PaCO₂ 55、HCO₃⁻ 15
ここから予測される状態は何かな?
pHは7.10で、正常範囲(7.35〜7.45)よりかなり低い状態。つまり強いアシデミアと考えられるよ。PaCO₂は55 mmHgで、正常値(35〜45 mmHg)より高い。これは呼吸性アシドーシスを示しているよ。
一方で、HCO₃⁻は15 mEq/Lで、正常値(22〜26 mEq/L)より低い。これは代謝性アシドーシスを示しているよ。
つまりこの例は、呼吸性アシドーシスと代謝性アシドーシスが同時に起きている「混合性アシドーシス」と考えられるんだ。
代償で説明できる範囲を超えてpHが大きく酸性に傾いているときは、「2つの異常が同時にある」と考えられるんだ。敗血症や心停止後、重症外傷など、重篤な状態で見られる状態だよ。
ケース5:pHとHCO₃⁻の上昇に注目
pH 7.55、PaCO₂ 48、HCO₃⁻ 32
ここから予測される状態は何かな?
pHは7.55で、正常値(7.35〜7.45)より高いから、アルカレミアの状態。PaCO₂ 48 mmHg(少し高め)、HCO₃⁻ 32 mEq/L(高い)。pHとHCO₃⁻が同じ方向に動いているから、代謝性アルカローシスといえるよ。
PaCO₂が少し高めになっているのは、体が呼吸を抑えて二酸化炭素をため込み、酸性に傾けてバランスを取ろうとしているから。つまり、代償ありと判断できる。
結論、この例は代謝性アルカローシス+呼吸性代償と考えられるよ。こういった変化は、嘔吐や利尿薬の使用などが原因で起こることが多いんだ。
ケース6:PaCO₂の低下に注目
pH 7.55、PaCO₂ 28、HCO₃⁻ 24
ここから予測される状態は何かな?
pHは7.55と高くなっているので、アルカレミア。PaCO₂は28 mmHgで低下、HCO₃⁻は正常範囲(22〜26 mEq/L)。pHとPaCO₂が逆方向に動いているから、呼吸性アルカローシスだね。
このとき、HCO₃⁻がまだ正常なので、腎臓の補正は十分に働いていないと考えられるんだ。つまり、まだ代償がおこっていない、急性の呼吸性アルカローシスと考えられるよ。
この状態は、過換気症候群や、低酸素で呼吸が速くなったときに見られることがあるよ。
看護の視点

採血方法の手技や看護のポイントを押さえておこう!
採血方法と手技のポイント

採血後は、しっかりと圧迫止血をしよう。
- 穿刺部位を5分以上しっかり圧迫する(抗凝固薬使用中や出血傾向がある患者では10分以上)
- 圧迫が不十分だと血腫やしびれの原因になるので要注意
- 圧迫中も痛みや手指の色調・冷感を観察する
症状や状態の観察
血ガスの結果はもちろん大切だけど、患者さんの症状とあわせて考えることが重要。
- 頭痛、傾眠、呼吸苦、チアノーゼなど → 急性の悪化サイン
- 酸・塩基異常に関連する症状(痙攣、筋肉けいれん、意識混濁など) → 早めに報告・対応する
数値を読むことも大切だけど、患者さんの症状や訴えが一番!血ガス分析ができると、予測が付けられるから、先輩や医師へ的確な報告ができるようになるよ。
データを読む習慣をつける
pH、PaCO₂、HCO₃⁻の関係性を理解して、自分で「異常パターンに気づける力」を身につけよう。
- 先輩やチームメンバーと一緒にデータを確認し、自分の考えを言葉にする
- 研修やシミュレーションでケースを繰り返し練習し、判読の流れを身体で覚える

初めは読めなくて当然!
繰り返し練習していくうちに、症状と結びつけて見えるようになるよ!

血液ガス分析を振り返ってみるよ!
「血液ガス分析」解説記事のまとめ
- 血液ガス分析の目的は、体内のガス交換機能や酸塩基平衡を評価し、異常の早期発見や治療効果の確認につなげること
- 検査では、pH・PaO₂・PaCO₂・HCO₃⁻・SaO₂などを測定し、正常値を基準に判定する
- 判読はpHで酸性かアルカリ性か→呼吸性か代謝性か→代償の有無を確認するの3STEPで読み進める
- 看護師は「物品準備・採血後の圧迫止血・観察」をしっかり行い、患者の状態変化(呼吸苦、意識変化、チアノーゼなど)を合わせて確認することが重要

今の患者さんの状態を知るためにも、大切な検査なんだね。難しいとは感じるけど、コツコツ積み重ねて読めるようにしていこう!


