
意識障害


今日意識のない患者さんが運ばれてきて、何をしたらいいか全然分からなくて…。脳の病気以外にも意識消失することはあるの?

脳血管疾患以外にも、意識消失を起こす疾患はたくさんあるんだ。意識障害の鑑別や治療について学習していこう!
解説記事で学べること!
意識障害の病態
意識は、「覚醒」と「認識」という2つの要素から成り立っているよ。
覚醒は、目が覚めているかどうか、つまり意識の水準を表すもので、看護の場面では「意識レベル」とも呼ばれる。一方、認識は、自分が誰でどこにいて、まわりの状況がどうなっているかといった「意識の内容」を指す。一般的に「意識障害」というと、まず覚醒レベルの低下を指すことが多いけど、認識の異常も意識障害に含まれるんだ。
「意識レベルの障害」は、どれくらい目が覚めているか(覚醒しているか)に関わるもの。たとえば、眠っているように反応が鈍くなる、呼びかけても目を開けないといった状態がこれにあたるよ。
これは、大脳の広い範囲(特に両側)に障害が起きたときや、脳の深い部分にある「上行性網様体賦活系」という、覚醒を保つための重要な神経の働きに異常が出たときに起こる。この2つが同時に障害されている場合や、ストレスや心理的な要因(心因性)によって起こるケースもあるんだ。
「意識内容の障害(意識変容)」は、覚醒はしているけれど、思考や理解、周囲の認識が混乱するような状態。たとえば、自分がどこにいるか分からなかったり、話がかみ合わなかったりする場合だよ。
これは、大脳皮質の一部に障害があるときや、心因的な影響によっても起こることがあるよ。突然こうした変化が現れるときは、急性脳症や非けいれん性てんかん重積、脳卒中、中枢神経の感染症、薬の副作用など、重大な原因が隠れている可能性もあるよ。
さらに、意識障害は、意識レベルの段階によって分類できるよ。
- 傾眠:声をかけると起きるが、放っておくとすぐ眠ってしまう
- 昏迷:大声で呼んだり体を揺すったりするような強い刺激で反応する
- 半昏睡:強い刺激に、顔をしかめる・手足を動かすなどのわずかな反応
- 昏睡:どんな刺激を与えても反応がない。目も開かない
日常的に健康な方が傾眠状態であれば、疾患が隠れている可能性があるよ。しかし、高齢者ではよくみられる状態であるため、日頃の様子と照らし合わせて評価する必要があるんだ。
意識障害の原因

意識障害の原因は、脳そのものの異常によるものと、脳以外の異常の2つに分けられるよ。
脳そのものの異常では以下のような疾患がある。
- 脳出血、脳梗塞、くも膜下出血などの脳血管障害
- 脳腫瘍、外傷(脳挫傷、硬膜下血腫など)
- 髄膜炎などの感染症
脳以外の異常には、以下のような疾患がある。
- 肝臓、腎臓、肺、心臓などの臓器の機能不全
代謝異常(低血糖や電解質異常など) - 薬物中毒
- 不整脈や心肺停止など
突然の意識障害は、命にかかわる可能性があるから、早急な対応が必要だよ。
意識消失と失神の違い
「失神」とは、一過性の意識消失のことを指すよ。脳への血流が一時的に不足し突然意識を失うけど、短時間のうちに自然に完全回復するのが特徴。
一般的には、意識消失は数秒から数分以内で回復し、意識が戻った後には神経学的な後遺症はほとんど残らないよ。原因としては、不整脈や、立ち上がったときに血圧が下がる「起立性低血圧」や、強いストレス・痛み・排便時などに起こる「神経調節性失神(迷走神経反射)」などがあるよ。
一方で、意識を失ったまま長時間にわたって回復しない状態は、「遷延性(せんえんせい)意識障害」と呼ばれる。これは、脳の構造に明らかな障害(器質的障害)があることによって生じることが大半なんだ。原因として、脳出血や脳梗塞、重度の頭部外傷、低酸素脳症、重症感染症などが挙げられる。自然に意識が回復することは期待しにくく、生命にかかわる重大な状態といえるよ。
意識障害の評価スケール
意識障害は、見た目の印象だけでは判断できないから、客観的に評価するスケールが使われるよ。意識レベルは時間とともに変化するから、定期的に繰り返して評価することが大切!
JCS(Japan Coma Scale)
日本で広く使われているシンプルな評価方法

GCS(Glasgow Coma Scale)
世界中で使われており、詳細な評価ができる。救急や脳神経外科でよく使われます

意識障害の症状
「意識障害」と一言でいっても、その原因や重症度によって現れる症状はさまざま。観察するうえでは、意識そのものの変化だけでなく、全身状態や神経症状、呼吸や脈拍といったバイタルサインも重要な手がかりとなるんだ。

まず外傷の有無や全身状態の確認をして、既往歴(これまでの病気やけが)、服薬状況などをしっかり聴取することが大切!
1. 脳・神経系の異常
- 脳梗塞・脳出血:ろれつが回らない、片側の顔や手足の運動麻痺、しびれ、脱力、歩行障害、頭痛、視力障害、異常呼吸(チェーンストークス呼吸・ビオー呼吸)など。
- てんかん:全身性または部分的なけいれん、体の一部のぴくつき、口をもぐもぐ動かすなどの異常運動。
2.代謝性疾患・内分泌異常
- 低血糖:発汗、動悸、手の震え、顔面蒼白、頭痛、異常行動、けいれん、昏睡。
- 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA):低血糖に似た症状に加え、クスマウル呼吸(深くて速い呼吸)が特徴的。
- 尿毒症(腎不全):疲労感、思考力低下、情緒不安定、不眠、頭痛、呼吸困難など。
3. 呼吸・循環系の異常
- 低酸素血症:頻脈、息切れ、頭痛、血圧上昇、けいれん、意識障害。
- 不整脈:脈が飛ぶ、脈の不規則性、胸痛、息切れ、めまい、意識消失。
- 心不全:動悸、息切れ、疲れやすさ、咳、めまい、下肢のむくみ。
4. 中毒・環境因子
- 急性アルコール中毒:嘔吐、頭痛、失禁、脱力、顔面・全身の紅潮、歩行困難。
- 低体温症:全身の震え、判断力・思考力の低下、歩行困難、不整脈、意識低下。
- 熱中症・高体温:無汗、口渇、強い倦怠感、重症例では意識障害や意識消失を伴う。
このように、意識障害の背景には、多くの疾患や異常が隠れているから、広い視野を持った観察が大切なんだ。
AIUEOTIPS
意識障害の観察時によく使われる「AIUEOTIPS(アイウエオティップス)」という語呂合わせがあるよ。これは、意識障害の代表的な症状を整理したものなんだ。

瞳孔所見
意識障害で観察すべき項目の一つが瞳孔所見。瞳孔所見の見方は以下のとおり。
- 縮瞳(2mm以下):脳幹出血、麻薬や有機リン中毒、アルコールや睡眠薬など。
- 散瞳(5mm以上):脳死、重度の低酸素脳症、重度の低血糖など。
- 瞳孔不同(左右で0.5mm以上の差):脳ヘルニアなど、脳圧が片側に強くかかった状態。
- 眼球の偏り(共同偏視):左右どちらか一方向を見たまま動かない場合は、脳出血やけいれん発作の可能性。
- 人形の目現象(oculocephalic reflex)の消失:通常、頭を動かしたときに眼球が反対方向を向く反応。これが消失している見られない場合は、脳幹障害を疑います。
瞳孔の大きさや左右差、反応、眼球運動などは、原因検索の重要な観察ポイントだから、定期的に観察していこう。
意識障害の検査

診断には原因を確定する検査が重要。代表的な検査を解説するよ!
採血
血液検査では、糖代謝や電解質、肝機能、腎機能の異常がないかを評価するよ。特に低血糖は迅速な対応が必要なので、採血と同時に簡易血糖測定器を使って血糖値をただちにチェックしよう。
血糖値は通常、空腹時で70〜99mg/dLが基準とされている。血糖値が70mg/dLを下回ると交感神経症状(発汗、動悸、手の震えなど)が出現し、50mg/dLを切ると中枢神経症状(意識混濁、けいれん、昏睡など)が現れる可能性があるよ。
また、電解質・代謝物の異常も意識障害の原因となるため確認が必要。
- カルシウム、マグネシウム、リン、ナトリウム:神経の興奮性に関与
- アンモニア:肝性脳症の指標となる
- 高血糖・尿毒症:体内の老廃物や毒素の蓄積による脳機能の低下が疑われる
動脈血ガス分析
動脈血を用いて、血液中の酸素分圧(PaO₂)、二酸化炭素分圧(PaCO₂)、pH、重炭酸イオン(HCO₃⁻)濃度を測定するよ。
これにより、以下のような状態を把握できる。
- 低酸素血症:PaO₂が60mmHg以下の状態で、脳への酸素供給不足による意識障害がおこる
- 高炭酸ガス血症:PaCO₂が45mmHg以上に進行すると中枢神経が抑制される(CO₂ナルコーシスのリスクも)
- アシドーシス・アルカローシス:代謝や呼吸によるpHの異常
特に、意識障害の背景に、呼吸不全や代謝異常があるかどうかの判別に有用だよ。
頭部単純CT
頭部CTは、脳出血や脳梗塞、脳腫瘍といった、器質的疾患の診断に不可欠な画像検査。出血の有無、発生部位、病変の広がりを確認するよ。
頭部CTで確認できる疾患は以下のとおり。
- くも膜下出血、脳出血、脳梗塞
- 脳腫瘍、脳膿瘍
また、CTで占拠性病変(腫瘍や浮腫など)を除外したうえで、必要に応じて髄液検査を追加することもあるよ。
脳脊髄液検査
意識障害とともに頭痛や発熱がある場合、髄膜炎や脳炎を疑い、腰椎穿刺によって脳脊髄液を採取・分析するよ。
また、CTで広範な病変が否定された後に、くも膜下出血のminor leakage(小規模出血)を疑う場合にも行われるんだ。
注目する所見は以下のとおり。
- 髄液中の細胞数増加:細菌性・ウイルス性髄膜炎
- キサントクロミー(髄液の黄変):くも膜下出血の証拠
12誘導心電図
心疾患は意識障害の重要な鑑別要因。心筋梗塞や不整脈があると脳への血流が不安定になり、意識消失に至ることがあるよ。
心電図検査では以下を評価する。
- 不整脈(心房細動、心室細動、徐脈など)
- 虚血性変化(ST上昇やT波の変化など)
また、ベッドサイドモニターを装着し、継続的に心泊数や波形を観察するよ。
意識障害の治療
意識障害の治療は、生命を脅かす原因の迅速な特定と初期対応が最優先。その上で、原因に応じた適切な治療を進めていくんだ。
初期対応
まずはABCの安定を図る。気道確保・気管挿管や人工呼吸器の装着、循環不全に対する治療を速やかに実施するよ。初期対応と並行しながら、原因を検索していくんだ。
各病態への処置
低血糖
低血糖が意識障害の原因と考えられる場合には、50%ブドウ糖液を、医師の指示のもと直ちに静脈投与するよ。
ただし、慢性アルコール中毒患者においては、ブドウ糖の投与によってウェルニッケ脳症症(ビタミンB₁欠乏による脳障害)を誘発するリスクがあるから、塩酸チアミン(ビタミンB₁)100mgをブドウ糖の投与前または直後に併用することが推奨されているんだ。
糖尿病性昏睡(ケトアシドーシスなど)
糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖症候群が原因で昏睡状態に陥っている場合には、水分補給とインスリン療法、電解質の補正が必要。
具体的には、生理食塩水を1時間あたり500mLの速度で点滴静注しつつ、速効型インスリンを生理食塩水に溶解して、0.1単位/kg/時の速度で持続的に静注していくよ。
肝性昏睡
肝不全による意識障害では、血中アンモニア濃度の上昇が脳機能を抑制することが知られているね。このため、腸内でのアンモニア産生を抑える治療を行うよ。
治療としては、特殊アミノ酸製剤や高カロリー輸液による栄養管理を行うとともに、ネオマイシンやラクツロースを用いて腸内細菌の活動を抑制し、アンモニアの生成と吸収を防ぐよ。
薬物中毒
薬物中毒が疑われる場合には、原因薬物に応じた拮抗薬の投与が行われる。
たとえば、痛み止めのモルヒネなどオピオイド系薬物による中毒が原因であれば、拮抗薬である塩酸ナロキソンの静脈投与が有効だよ。
睡眠薬や抗不安薬のベンゾジアゼピン系薬物中毒の場合には、必要に応じて拮抗薬フルマゼニルを投与することもある。ただし、けいれん誘発などの副作用のリスクがあるから、慎重な判断のもとで使用されるよ。
専門診療科への引継ぎ
検査結果により、適切な専門診療科への引継ぎを行い、疾患に対する治療が行われるよ。
意識障害の看護

意識障害の患者さんには、生命を優先した迅速な対応と観察・アセスメント、治療の準備など多くの可能性を考慮しながら対応していくんだ。

バイタルサインの観察
意識障害のある患者では、まずABC(気道・呼吸・循環)を優先した観察と対応が原則。バイタルサイン(呼吸、脈拍、血圧、体温、酸素飽和度)の測定に加えて、心電図モニターを装着し、経時的な変化を観察しよう。
また、患者の変化に対応しやすいよう、病室の調整を行っておこう。CPAや人工呼吸器管理が必要となった場合には、ICUや観察室など急変対応に備えた病室に移動しておくことも考慮しよう。
意識レベルの観察
意識レベルの評価は、JCSやGCSなどのスケールを用いて観察するよ。施設や診療科によって使用するスケールが違う可能性もあるから、所属する部署でどのスケールが使われているかは確認しておこう。
加えて、瞳孔の大きさ・対光反射、眼球運動、四肢の運動や左右差の有無など神経学的な視点や、既往歴や現病歴をふまえた背景情報の収集も大切。
意識レベルの評価は、観察者の主観や刺激の強さにより差が出ることもあるよ。スタッフの評価を統一するためにも、日頃からスタッフ間での評価基準の共有やトレーニングをしておくと安心だね。
適切な初期対応
特に糖尿病患者における低血糖は、入院中に看護師が初めに気づくことも少なくないよ。「いつもと様子が違う」と感じたら、バイタルサインの確認に加えて血糖値を測定し、低血糖の徴候があれば速やかに報告・処置へとつなげることで、重症化を防ぐことができる!
また、既往歴・現病歴・服薬歴の聞き取りを徹底し、家族や付き添いの方からの情報収集も重要だね。
予測される治療の準備
意識障害の原因によっては、薬物治療に加えて外科的手術やカテーテル治療などの専門的な処置が必要になる場合もある。だから、検査技師や放射線技師、薬剤師などの他職種との連携も必要。あらかじめ情報共有をしておくと、スムーズに対応できるね。
また、処置中や検査中に呼吸・循環不全からCPA(心肺停止)に至る可能性もあるから、救急カートの準備や人員配置など急変対応の体制づくりも重要な看護業務のひとつだよ。

意識障害を振り返ってみるよ!
「意識障害」解説記事のまとめ
- 意識レベルは傾眠、昏迷、半昏睡、昏睡の4段階に分類される
- 評価にはJCSやGCSが使用されるなどのスケールが使用される
- 意識障害の原因は、脳そのものの異常と脳以外の異常(臓器機能不全や代謝異常)に分けられる
- 意識障害の治療は、生命を脅かす原因の迅速な特定と初期対応(A気道・B呼吸・C循環の安定化)が最優先
- 看護師は、小さな変化に気付き、その後の経過も予想して動くことが重要

まず原因やリスクも一緒に考えながらアプローチしていかないと…!看護師の「気づき」がとても重要なんだね!できることから取り組んでみよう!


