
インスリン療法


インスリンって種類がたくさん!覚えるのが大変だから一つにしてほしいよ~!

インスリンといっても作用や持続時間など違いがあるんだよ。

えっ!?使う時間が違うだけじゃないの!?

よく使う薬とはいえ、副作用もある薬。しっかり理解していこう!
解説記事で学べること!
1.インスリンの適応

インスリンとは、膵臓から分泌されるホルモンで、血糖値を下げる働きがあるよ。
自分の体でインスリンが作れない人や、血糖値がとても高くて内服薬だけではコントロールできない人にとっては、命を守るために欠かせない薬なんだ。
ただ、血糖が高いから必ずしもインスリンを使うわけではなく、インスリンの適応は、「絶対的適応」と「相対的適応」に分けられているよ。
絶対的適応
絶対的適応とは、「インスリンを使わないと命に関わる」「インスリン以外ではコントロールが難しい」と判断される状態のこと。つまり、インスリンが必須な場面!
- インスリン依存状態
1型糖尿病など、そもそも自分の体でインスリンが作れない状態。 - 高血糖による昏睡状態
糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)や高浸透圧高血糖状態(HHS)は、血糖値が極端に高くなって、意識障害やショックを起こすことがある。緊急でインスリン投与が必要な状態。 - 重度の肝障害・腎障害を合併しているとき
内服薬の代謝・排泄ができなくなるから、内服薬ではなくインスリンに切り替える。 - 重症感染、外傷、手術時(特に全身麻酔)
ストレスがかかる状況では血糖値が大きく乱れる。感染が重かったり、外科手術を控えていたりする場合は、一時的にインスリンで管理することがある。 - 糖尿病合併妊娠や妊娠糖尿病
妊娠中は飲み薬が使えないことが多い。また、胎児への影響も考慮して安全性の高いインスリンが選ばれる。 - 中心静脈栄養(TPN)中の血糖コントロール
TPNでは高濃度の糖分が入るため、血糖値が上がりやすい。
相対的適応
相対的適応とは、「状況に応じてインスリンを使った方が望ましい」と判断されるときのこと。他の治療法でもよいけれど、インスリンのほうが効果的と判断される場面もあるよ。
- 空腹時血糖が250mg/dL以上、随時血糖が350mg/dL以上など、著明な高血糖
- 内服薬だけではコントロールできないとき
- やせ型・低栄養で内服薬の効果が弱い場合
- ステロイド治療中の高血糖
- 血糖を下げて膵臓の負担を減らす糖毒性の解除が必要なとき
2.インスリンの種類と作用機序
インスリンは、肝臓や筋肉、脂肪細胞に働きかけて、血液中のブドウ糖を細胞の中に取り込ませるホルモン。インスリン製剤は、この働きを外から注射で補う薬だよ。
インスリンは、効き始めるまでの時間や作用の持続時間によって分類されているよ。
| 分類 | 作用発現 | 最大作用 | 持続時間 | 主な用途・特徴 |
| 超速効型 | 約10~20分 | 約2時間 | 約4~5時間 | 食直前に使用。 食後血糖の急上昇を抑える。 追加インスリン用。 |
| 速効型 | 約30分 | 約2時間 | 約5~8時間 | 食前に投与。スライディングスケールにも使われる。 |
| 中間型 | 約1~3時間 | はっきりしない | 約18~24時間 | 基礎インスリン。白濁しているためよく混和して使う。 |
| 持効型溶解長時間型 | 約1~2時間 | 明確なピークなし | 約24~42時間以上 | 1日1回でOK。 夜間低血糖が起こりにくい。基礎インスリン用。 |
| 混合型 | ※ | ※ | 中間型とほぼ同じくらい | 超速効型または速効型+中間型の混合。 1日2回投与が一般的。 |
| 配合溶解型 | ※ | ※ | 持効型に近い | 超速効型+持効型の組み合わせ。 血糖変動をより安定させる。 |
混合型・配合溶解型は、含まれるインスリンの種類や比率によって効き方が少しずつ異なるよ。
製品によって特徴が違うから、実際に使うときは製品ごとの情報(添付文書など)を確認しよう!
3.インスリンの副作用

血糖を下げるという強力な効果がある分、副作用にも注意しよう!
低血糖
インスリンの副作用で最も注意が必要なのが「低血糖」だよ。低血糖は、インスリンの打ちすぎや、食事がとれないなどが原因で、血糖値が70mg/dlを下回ってしまった状態。命に関わる状態たから、ただちに対応が必要だよ。
- 血糖が下がりすぎることで、ふらつき・冷汗・意識障害などを起こす
- 肝臓からの糖の放出が抑えられ、筋肉や脂肪で糖の取り込みが進みすぎるのが原因
- 特に強化インスリン療法(頻回のインスリン注射)では、重い低血糖のリスクが高くなる
その他よくある副作用
体重増加
インスリンには「同化作用(栄養を取り込む働き)」があるため、食事量が変わらなくても太りやすくなるんだ。特に強化インスリン療法で起こりやすいよ。
網膜症の一時的な悪化
血糖値を急に下げすぎると、目の奥にある毛細血管に負担がかかって、糖尿病網膜症が一時的に悪化することがあるよ。特に治療開始から1~2年以内は注意が必要。
まれに見られる副作用
アレルギー反応(局所・全身)
- 注射部位が赤くなったりかゆくなったりする「局所アレルギー」
- ごくまれに、全身に急激な反応が起こる「アナフィラキシーショック」
インスリン抗体の産生
インスリンに対して体が「抗体」を作ることがあるよ。多くは問題にならないけど、まれに血糖値が安定しづらくなることも。
1型糖尿病のような病態の出現
もともと2型糖尿病だった人でも、インスリン投与をきっかけに、自己免疫に膵β細胞が破壊されてしまうことがある。インスリン抗体が高値で出たり、急激に血糖コントロールが悪化したりする場合は要注意。
皮下硬結
同じ場所に繰り返し注射していると、皮下脂肪が盛り上がったり、アミロイドという物質がたまってコブのようになったりすることがあるよ。こうなるとインスリンの吸収が悪くなって血糖コントロールが不安定になるんだ。
また、こういった副作用が表れやすい人もいるんだ。
- 高齢者や腎機能が低下している人:インスリンが体に残りやすく、低血糖になりやすい
- 血糖コントロールを急に始めた人:網膜症の悪化に注意
- アレルギー体質の人:インスリンアレルギーの可能性あり
- 自己注射の手技が不安定な人:同じ場所に打ち続けることで皮下硬結のリスク
- 体重管理が難しい人:インスリンによる体重増加が出やすい

基礎疾患や状況に合わせて、より慎重に観察する必要があるね。
4.インスリンの禁忌・投与時の注意点

インスリンには明確な禁忌はないけれど、投与の仕方やタイミング、患者さんとの関わり方には注意点がたくさんあるよ。
インスリン製剤の取り扱いに関する注意点
白濁タイプはよく混ぜる
中間型インスリンや混合型インスリンは、見た目が白く濁っているのが特徴。このタイプは、注射の前にしっかり混和しないと、効果にムラが出てしまうんだ。
- ボールペンを転がすように10回以上ゆっくり転がす
- 振るのではなく、均一に白濁するまでやさしく混ぜる
製剤の形状と選び方
インスリン製剤には、以下の3種類があるよ。
- バイアル製剤(注射器で吸うタイプ)
- カートリッジ製剤(専用のペン型注入器にセット)
- プレフィルド製剤(使い捨てのペン型)
患者さんの手技のしやすさ、自己管理の能力、費用負担などを考慮して選択されるから、それぞれの扱い方を把握しておこう。
投与方法・注射部位に関する注意点
注射部位はローテーションに
いつも同じ場所に打っていると、皮下脂肪が盛り上がったり硬くなったり(皮下硬結)して、インスリンの吸収が悪くなることがある。
対策は以下のものがあるよ。
- 注射するたびに2~3cmずらす(ローテーション)
- お腹・太もも・腕などの部位を日ごとに変える
- 皮下硬結ができた場所には打たないようにする
患者指導に関する注意点
低血糖への対処力があるか
強化インスリン療法(1日数回のインスリン投与)を行うには、患者さん自身が低血糖のサインに気づき、対処できることが前提になるよ。
- 症状を言葉で説明できるか
- ブドウ糖やジュースを常に携帯できるか
- 家族や周囲の人も対応を知っているか
適切に使用していてもコントロール良好とは限らない
2型糖尿病の患者さんでは、インスリンを使っても血糖値を安定して保つのが難しいこともあるんだ。「うまく使えていないからコントロール不良」ではないんだよ。患者さんの生活習慣・モチベーション・理解度をふまえて対応しよう。
自分で用量を調整することもある(セルフタイトレーション)
持効型インスリンを使っている患者さんの中には、血糖値を見ながら自分で用量を微調整する方法を取り入れている人もいるよ。でも、これはしっかりした指導と理解があってこそ成立する方法だから、患者さんが自己調節できるかを見極める視点が大切。
5.インスリン投与前/中/後の看護ポイント

患者さんのステージに合わせて対応も変えていかないとね。
看護のポイントを解説するよ。
インスリン投与前の看護
患者さんの不安や疑問に気付き、寄り添うようにしよう。安心して治療を始められるように、医療者との信頼関係も重要だよ。
- 治療の目的や、インスリンの働きをていねいに説明する
- 注射手技(混ぜ方・空打ち・打つ場所など)を一緒に練習する
- 注射器具やインスリン製剤の使い方を繰り返し指導する
- 低血糖の症状や対応(ブドウ糖の携帯など)について確実に実行できるようにする
- 「インスリンは怖い」「太るんじゃないか」などの不安にも耳を傾ける
インスリン投与中の看護
患者さんが、インスリン治療を続けていく中で出てくる、悩みや変化に気づくことが看護師の役割だよ。
- 注射部位に赤み・腫れ・しこりがないか確認する
- 同じ場所ばかり打っていないか、ローテーションできているか確認する
- 低血糖のサイン(冷や汗・ぼんやり・動悸など)が出ていないか観察する
- 血糖値の変動と生活(食事・運動・ストレス)を一緒に見直す
- コントロールの良し悪しだけでなく、その背景にある生活にも目を向ける
インスリン投与後の看護
治療が習慣になってくると、患者さんがどう感じているか、無理していないかを確認することが大切なんだ。
- 自己注射がきちんと続けられているか、具体的に困る場面はないか聞いてみる
- 家族や職場など、周囲との関係や支えがあるか把握する
- 患者自身の目標や、生活の中で工夫したいことを一緒に考える
- 教育の機会(糖尿病教室、地域の支援など)を紹介する
- 「疲れた」「やめたい」などの声がないか、気持ちの変化にも気づくようにする
インスリン治療を支える看護の視点
インスリン療法は、「打つ」だけじゃないよ。看護師は「できない理由を責めない」関わりが大切だよ。
- 患者が自分で考え、選べるようにサポートする(エンパワーメント)
- うまくできない時も、「一緒に考えよう」というスタンスで関わる
- 差別や偏見(スティグマ)で悩んでいないか、そっと寄り添う
- 不安が強い時は、心理士や主治医と連携してサポート体制をつくる
- 患者の生活や価値観をふまえて、その人らしい治療の形を一緒に探す
- 長期的に自己注射をしている患者さんであっても、定期的に手技を確認し、適切に行えているか評価する。必要に応じて再指導を行う
インスリン治療は継続が大切。患者さんが正しく前向きに取り組めるようサポートしよう。

インスリンを振り返ってみるよ!
「インスリン」解説記事のまとめ
- インスリンは作用発現や持続時間の違いにより使い分けが必要な薬。
- 低血糖はインスリンのもっとも注意すべき副作用で、特に高齢者や腎機能が低下している人では慎重な観察が必要。
- インスリン治療には患者の理解と協力が不可欠で、低血糖への対応力や自己管理能力が求められる。
- 看護師は、患者の不安や生活背景に寄り添いながら、継続的に支援・教育することが重要。

患者さんの「できていない」ことより「できていること」に注目して関わっていこう!


